二人の秘密
そろそろ勇者のセリフはなくなってきます。
土曜日。私は、自分の部屋の鏡台の前に座ってた。いわゆるドレッサーである。上半身が映りこむ大きさの鏡には両開きの扉みたいなものがついていて、開くと内側にも鏡がついている。全て開けば三面鏡としても使えるのだ。機能よりもデザインが気に入って買ってもらった家具。白塗りで、外国のお姫様が使っていそうな可愛いデザインをしている。まさかこのお気に入りのドレッサーが異世界への入り口になるとは思いもしなかったけど。
普段ならぬいぐるみを置いたり、アクセサリーボックスを置いたりしているテーブルは、お菓子やジュースで埋められていた。昨日、勇輝に渡された今回の物資である。私のお昼や差し入れも置かれている。何だかんだ、私が気分を害していることを察してくれたらしい。こういう所が憎めないんだよね。
時計を見ると、九時を回っていた。そろそろ、勇輝が異世界へ向かった頃だろうか。
勇輝がピュールさんから聞いた説明によれば、私と勇輝が持っている腕輪は、ピュールさんにとっての目印らしい。ピュールさんが異世界とこちらの世界を繋ぐにあたり、この腕輪がある場所へ繋ぐ、という方法をとっているとのこと。そして道として繋ぎやすいのが鏡。つまり、腕輪があって対象が通れるくらいの鏡があれば、異世界への入り口は場所を選ばないのだ。これは勇輝も知らなかったらしい。
勇輝とは別に腕輪を貰った私は、自分の部屋から勇者のサポーターをする事が可能になった。勇者召喚の儀式は神官が何人も必要だったって聞くのに、勇者を行き来させるのはピュールさん一人。更に私にも便宜を図ってくれるのだから、ピュールさんって実はすごいのでは、と私は思ったけど、ピュールさんはそんな事ないと否定するし、勇輝は勇輝で、ピュールは戦えないからこれくらいは普通なんじゃないかと言う。
絶対に普通じゃないと思う。多分、ピュールさんは謙遜しているのだろう。勇者の信者みたいなところがあったし。
とにかく、私はピュールさんのお陰でかなり楽をさせてもらっていた。前回とは違って自分の家だし自分の部屋だから、あまり緊張がない。トイレに行きたければ行くし、お腹が空いたら何か食べる。待機していても、ベッドに寝転んだっていいのだ。
「ピュールさん様々だなあ……」
早速、私はベッドに寝転がって大きく伸びをした。出かけられないのはデメリットだけど、私は休日に出歩くのはあまり好きじゃないから、そんなにデメリットでもない。休みの日に予定を入れたくないタイプではあるけど。そこはまぁ、幼馴染だし。時々ならいいかなと思う。今日手伝ったら来週はお休み、再来週はサポーター……みたいな感じで。
そのあたりは今後、勇輝と相談かなと思いながら読みかけの本に手を伸ばした、その時。
「ん?」
妙な感じがした。起き上がって、ドレッサーの鏡を見てみると、鏡面が揺らいでいる。勇輝の部屋で散々見た、あの現象だ。向こうの世界からの呼びかけ。
「ピュールさん?」
鏡に向かって声をかけると、ユラユラ揺れる鏡の向こうの人影が、徐々に鮮明になっていく。
そこには、今の所私の周りで一番のイケメンである異世界の友達、ピュールさんがいた。やっぱり金髪のイケメンは目の保養だ。
『こんにちは、ミアさん。お久しぶり……でしょうか』
「こっちだと一週間くらいだから、あんまりかな。そっちは違うんですか?」
『ええ、もう少し時間が経っていますね』
「ところで、どうしました? 勇輝、もう何か送れって言ってきたんですか?」
ちょっととげのある言い方になってしまった。それはピュールさんにも伝わってしまったらしく、彼は苦笑する。
『違いますよ。私が、ミアさんとお話ししたくて繋いでしまいました』
「私と?」
『はい。ミアさんのお話に、とても興味があって。もしよかったら、物資の調達以外でも、お話しませんか』
「えっ……私でよければ」
ピュールさんの提案は予想外だったが、気が付いたら了承していた。
ピュールさんは私にたくさん気を遣ってくれたし、たとえ彼が勇輝の話を聞きたいだけだとしても、彼が瞳を輝かせて私の話に耳を傾けている姿は、癒されるものがある。向こうから提案してくれるのなら、喜んで賛同する次第である。
『よかった。ありがとうございます』
「ううん、こちらこそ」
『こっちから言い出しておいて……申し訳ないんですけど、このことは二人だけの秘密にしてもらってもいいですか? 勇者様がいない間にミアさんと仲良くしていたら、きっと勇者様、気分を害するでしょうから』
「そんなことないと思うけど……」
本当に。私が待機していることも忘れていそうだよ。
でもそれでピュールさんが困るのは、私も困る。
「でも、分かりました。内緒にしておきます」
『ありがとうございます』
ピュールさんが笑った。それは、初めて彼と話したときと随分違う印象を与える笑い方だったが、今みたいに笑った方が、彼は素敵だと思う。
こうして私に、異世界の友人ができたのだった。
いちいち勇者の家へ行かなくてもよかったことから、勇者の用済み感が出ていますね。




