説得は秒で終わる
勇者が久々に出てきます。
勇輝の性格が変わったと、私は感じていた。
彼は異世界で選ばれた人間になったことで、ちょっと調子に乗っているのだと思った。
私が彼に苛ついたことも、実は一度や二度ではない。
でもその性格の変化が、勇者の剣の影響だとしたら?
「……私、勇輝と話してみる」
ディーの目が、私をじっと見据える。
『……勇者をやめろ、と言うのか?』
「うん。信じてもらえるか分からないけど、本当のことを話したい……いいかな」
『構わないが』
ディーは、存外あっさりと頷いてくれた。
いいんだ。私の方が意外そうな顔をしてしまっていただろう。
『あまり、過度な期待はしないでおいた方がいい。精神に作用する魔法は、長期の使用を禁じられている――だから、付与が禁じられているんだ。早々に効果が切れてしまう生物にしか使用してはいけない。それを破っているのだから、勇者は……』
ディーはそれ以上言わなかった。勇者が――勇輝が私の幼馴染だと思い出したのかもしれない。
「それでも、やってみる。……もし信じてくれたら、私ももう一度、勇輝と昔みたいに話せるかも」
今の勇輝と私の関係は、良好とはいえないだろう。サポーターは続けているものの、顔を合わせての会話は久しくしていない。
それに同級生たちの間でも、勇輝はあんな性格だっただろうか? と噂する声をちらりと聞いたことがある。
勇輝本人がどう思っている分からないけど、元は正義感が強い性格だ。異世界の真実と、勇者の剣の秘密を知れば、剣を手放して、魔族と戦うことも考え直してくれるかもしれない。
『その……何だ。魔族のことは気にしなくていいから、勇者のことを気にしてやれ。お前が思った通りの結果を得られるかは分からないが……健闘を祈る』
ディーは複雑そうに、私を応援してくれた。これから私がすることが、うまくいかないという確信があるのだろう。私自身は半々くらいでうまくいくんじゃないかと思っているのだけど。
「ありがとう」
だけど。
「――何、訳の分からないこと言ってるんだ?」
私の目論見は、まったくもって甘いものだったと思い知らされた。
ディーと話した、二日後の放課後。
私は勇輝に、異世界のことで話があると伝えた。
勇輝は嫌そうだったけど、異世界のことと聞いて仕方なく応じたのだろう。下校はバラバラに、勇輝を私の部屋へ招く。
「話って?」
早く帰りたい、という態度が滲み出ている勇輝にまた苛立つが、私が誘ったのだ、勇輝がそう思っても仕方ない。そう言い聞かせる。
「うん、あのね。実は――」
私は、ディーから聞いた異世界の歴史と、勇輝の勇者の剣にかけられているだろう魔法の話など、勇輝に知ってほしいことを全て話した。
たった一つ。「この話を誰から聞いたのか?」については「腕輪の力なのか分からないけど、私の家の鏡が時々異世界に繋がって、色々な場面を映して知った情報」ということにした。
かなり苦しい言い訳だが、魔王から聞いた情報だと言ったら、それだけで頭ごなしに否定される可能性が高いから。これにはディーも同意していた。
とにかく知ってほしいと必死で話す私の姿は、勇輝にどんなふうに映っていたのだろう。彼は最後まで、黙って私の話を聞いてくれた。それだけでも、私は期待していた。
話し終えた私に対して、一呼吸の間をおいて勇輝が発した第一声が、
「――何、訳の分からないこと言ってるんだ?」
だった。
「え?」
思わず、間の抜けた返答をしてしまった。だって、あれだけ色々話したのに、考える間もなく言うことが、それ?
「確かに、信じられないことかもしれないけど……でも、もしかしたらあるかもしれないことでしょう? 勇輝が異世界で急に強くなったことだって、やっぱり裏が……」
「俺が強いのはおかしいのか!?」
急に大きな声を出されて、私はびくついた。勇輝の目は、怒りに燃えて私を睨みつけている。
――どうも私の言い方は、勇輝のプライドを傷つけたらしい。
「そうは言ってないよ。その魔法っていうのもかけられた本人の能力を引き出すってものらしいから、間違いなく勇輝の力でしょ。ただ、それは体にすごく無理をさせていることらしいよ。本当はたくさん修行とかして身に着けるものを前借しているみたいな感じだから、反動がすごいって」
「俺の力なら、俺がどう使おうが俺の勝手だろ!」
「だから、そうじゃなくて」
びっくりするほど会話がかみ合わない。勇輝の耳は、自分に都合がいいことと聞き捨てならないことが強調して聞こえるらしい。不便だ。
「……勇輝、前はそんなに怒りっぽくなかったよ。性格変わったって、みんな言ってるでしょう。それも剣の影響だよ」
「みんなって誰だよ! ミミにもメリンにもそんなこと言われたことない!」
そっちこそ誰だよ。
異世界の知り合いなのだろうが、そちらの方は「かつての勇輝」をどれくらい知っているというのか。
「俺が弱いだの、魔族とは戦うなだの、勇者に言うことかよ。異世界に行ける俺が羨ましいからって、訳分からないこと言って引き留めようとして、最低だな。――もういい。お前にサポーターは頼まない」
勇輝は一方的に言い放つと、勢いよく立ち上がって、私の部屋を出、そのまま我が家を後にした。
玄関の扉が閉まる音が聞こえて、私は深く息を吐いた。
「言ってないよ、そんなこと……」
被害妄想と言ってもいいような思い込みだった気がする。
弱いなんて一言も言っていない。魔族とは戦わなくていいかもしれないとは言ったが、戦うなとは言っていない。大陸の歴史についてはまるっと無視されたし。
勇輝がどこまで私の話を信じてくれたのかより、一体どこまで私の話を理解してくれたのかの方が気になる。すり合わせたら、絶対にかみ合っていないだろう。
いずれにしろ、私の説得が失敗に終わったことだけは確かだった。
勇者は長く魔法の影響を受けて、人格が歪んでしまった…のもありますが、
異世界と元の世界のギャップなどもあり、魔法がなくても多少は性格が変わったのだと思います。
美愛の思い出補正もありそうです。




