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10/22

正体

ようやくたどり着いた!って感じです。

長々お付き合いいただき感謝です。


『……は』


 それは笑い声だった。ピュールさんには似つかわしくない笑い方。

 マジで何なの。鏡を叩き割るべきだろうか。でもこのドレッサー、高かったんだよ。こんな高級な家具、二度と買ってもらえないよ。

 未練がましく割れずにいると、鏡の向こうのピュールさんの姿が揺らいだ。逃げるのかと思ったけど、そうではなかった。ピュールさんの姿が消えて、私が映るだけだと思った鏡の中には、知らない男が映っていた。

 長い銀髪、赤い瞳。ピュールさんが霞みかねない勢いの美形だったが、なんか、角みたいなのが頭から生えている。二本も。


 だ、誰ー。

 私の心のツッコミが言葉になる前に、男はにやりと笑って得意げに口を開いた。


『さすがは、勇者の世界の人間だ。さしずめ貴様は賢者、といったところか』


 ち、ちげー。

 何でそう思ったんだ。意味わからん。


「違いますけど」


 とりあえず、誤解は解いておこう。即座に否定すると、男は眉を寄せた。


『違う? では、お前は何だ』

「こっちのセリフですけど。先に聞いたの私だし。どちら様?」


 私が先に聞いたんだから、向こうが先に答えるべきだ。うん、間違った事は言っていない。もし怒ったりしたら鏡を閉じて逃げようと、鏡台の扉に手をかけたままでいると、鏡の中の男はうん、と頷いた。


『確かにそうだな、お前が先に私の正体を見破り、問うたのだった。私が先に答えるべきだ。ああ、理に適っている。やはり賢者だろう』


 賢者は賢い者と書いて賢者だったと思うんだけど、これくらいで賢者に認定されるって、向こうの世界の知性レベルはどうなっているんだ。

 角を生やした男は頬杖をついて(偉そう)尊大な態度を隠そうともせずに私を見た。


『私は魔王だ。魔族を治めている』

「……」


 正直、そんな気はしていた。角、生えていたし。なんか急に偉そうになったし。でも改めて言われると、なんか、こう……何だろう。どう反応すればいいんだろうか。


「そう……なんですね?」

『そうだ。なぜ、あの神官ではないと分かった? 姿形、声や仕草……完璧だったと思うが』

「確かに、外見はピュールさんそのものだったけど……ピュールさんが聞きたがっていたのは、勇者の事ばかりだった。でもあなたの方は、こっちの世界の制度とか、そういう事ばかり聞きたがっていたから」


 ピュールさんはこちらの世界に興味があるような聞き方をしていたが、その実、勇者である勇輝にまつわる話を聞きたがっていたのだ。でも魔王が化けていた方は、純粋にこちらの世界に興味を持っていた。制度や文化といった、世界そのものの仕組みのような話。ピュールさんがミーハーという印象を受けるのに対し、魔王は研究者? 識者? ……みたいな。とにかく、そういう印象をうけた。

 

『なるほど。確かな観察眼を持っているようだ。やはり賢者だろう』

「誰でも分かるでしょう……」

『謙遜するな』


 謙遜じゃない。なぜ人を賢者にしたがるんだ。


「……それより、あなたの目的は? ピュールさんに何かしたの?」


 そう、そこが問題だ。

 私が今までピュールさんと思って話していた相手が魔王だというのなら、私は勇者の敵である魔王に情報を流していたことになる。……私の世界の政治とか文化とかの話しかしていない気がするけど、結果的には同じだ。私の世界のことを聞き出して、何をしようというのか。そして、こいつが私に干渉できたのがピュールさんへ害を加えたからだとしたら、本物のピュールさんはどうなったのか。物資を渡していたピュールさんは勇輝を慕う様子があったから、本物のように感じたけど、確証があるわけではない。

 私が一生懸命睨んでいると、魔王は心外だとばかりにわざとらしい困り顔をした。


『最初に言っただろう。お前の話に興味があると。私の目的はお前と話をすることだ。あの神官には、何もしていない』


 魔王は、私を――私の腕輪を指さした。


『お前が神官から預かった、その腕輪。それは、魔族の知識で作られたものだ。だからちょっと頑張れば、私でも座標を特定できるのだ。やはり勇者がこちらの世界にいることが前提だが』

「じゃああなた、今ちょっと頑張っているの?」

『ちょっと頑張るのは座標を探す時だ。今は別に頑張っていない。あの神官の目をごまかすのは、頑張る必要すらないからな』

「ふぅん」


 気のない返事をしながら、何だこの会話、と思う。

 ちょっと頑張ってるって何だよ。魔王が言うセリフか?


「つまり、物資の調達で連絡してきたピュールさんは本物で、雑談をしに来てたのが魔王って事?」


 これまで私が話していた『ピュールさん』は、私との会話の途中、「あ、勇者様から連絡があったみたいです。一度切りますね」と言って鏡の向こうに消え、もう一度戻ってくると、『こんにちは、ミアさん。勇者様から物資を補給してほしいと連絡です』といった感じで戻ってきて、私から物資を受け取っていた。てっきり私は、二人で会話している時間はいわゆる「さぼり」に該当し、勇輝が物資補給を依頼してきたら公私を切り替えて「仕事」をしているから、互いにさぼりの間の会話について言及しないのだと思っていた。そもそも別の人間に代わっていたのだ。


『その通りだ。さすがにお前とあの神官の間にあった会話を盗み聞くことはできないから、お前達が親密になっていたら破綻するような計画だったが……ばれなかったな。お前達、仲が悪いのか?』

「ほっといて」


 ちょっと気遣うように言われて苛ついた。

 別に、仲は悪くない。ただ、ビジネスライクの関係で収まってしまっただけだ。始めこそ、目の保養になるイケメンとの交流に癒されたものの、ピュールさんは徹頭徹尾勇輝にしか興味がなかった。だからこそ、彼が私の話を興味津々に聞いてくれて、自分の話も少しだけしてくれたのが嬉しかったのに。   その相手が魔王だったとは。


 

 



 

色々矛盾はあるかもですが、ご了承ください。

制作期間が空くと、ちょいちょい齟齬が出やすくなります…。

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