これが噂の―――
髪型、OK。スーツ、決まってる。履歴書、持った。
今回の履歴書は達筆で書けたし、何より最近取得した資格を記載した渾身の履歴書である。
慣れたくない作業に慣れてきてしまっている自分に情けなさを感じながら、母の仏壇へ手を合わせ「行ってきます」と挨拶をして玄関を出る。何処かいつもより悲しげな表情をしている様に見えたのは偶然だろうか。
また面接で失敗するかもしれない。ネガティブになりながらも足はバス停へと向かう。克己心を保つ為、あえてメールフォルダに残してあるお祈りメールを睨みつけながら歩いていると、いつの間にかバス停に到着していた。
少し早い時間という事もあり人の少ないバスに乗り込む。やや遅れての到着であったが余裕を持って出発しているので問題はない。一番後ろの席に座りバスの乗客を観察する。就職面接に向かう時は乗客を観察するのがルーティンになっている。色んな人がいて、色んな物語がある、その一端に触れる事で何処か心が落ち着くのだ。
学生風の男女が三人とサラリーマン風の男性とおじいさん。ハーレムか、羨ましいなあと遠い目で学生を眺めつつ、死んだ魚の様な目をしたサラリーマンを見やる。席が空いているのに立っているのは眠ってしまわないようにだろうか。逆におじいさんは眠っているのか全く動かない。心配になるくらい動かないな、と失礼な事を考えていた時であった。
強い衝撃と共にバスが急停車した。俺はなんとか転ばずに済んだがサラリーマン風の男性とおじいさんが倒れてしまっていた。急停車を詫びるアナウンスが流れる中、学生達はサラリーマン風の男性を起き上がらせているところであった。ならば、とおじいさんの元へ駆け寄った。おじいさんは頭を打ったのか自力では立ち上がれていない。
大丈夫ですか、と声をかけたところ少し驚いた後に大丈夫と答えがあった。女学生がこちらを怪訝な目で見ていたが安心してほしい、しゃがんでいても紳士なので覗かない。
冗談を言っている場合じゃない、とおじいさんの怪我がない事を確認し、起き上がるのを手伝った。
前方で運転手と男子学生が何事か揉めていた。どうやらバスが動かないらしい。面接に間に合うか不安に思っていると大きなクラクションが鳴った。心臓に悪いなと外を見やるとトラックが猛スピードで走ってくるのが見えた。
ただでさえ大きかったクラクションの音はどんどん大きくなっていき、あ、これ、死....。
拙い文章を読んで頂きありがとうございます。
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