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私の転職人生  作者: KIRARA
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合同研修会

 入社して3ヶ月目、地方地域全体の合同研修が2日にわたって開催された。研修会場は地方の中心部にあたる都市になるため、宿泊研修だった。

 同期入社の5人も一緒に研修会場となるホテルへチェックインした。

 1日目は基本的な座学、2日目は実践的な話法研修の予定だ。


 初日の研修、会場には約50人程、各地域からの同期が集合していた。

 研修では保険営業において必須であるノートパソコンの使い方を学んだ。様々な機能が集約されたソフト、例えば設計書を作成する機能や、事前準備してきた自分の保険証券を使って、他社の補償内容の比較といった作成機能などの使い方研修だ。

 モデル家族などの生涯設計を作成し、話法を用いて説明する研修もあった。

 最後は今後の査定までに必要になる成績単位の獲得方法。当社商品の話法研修などが初日に行われた。

 研修自体の内容はすごく勉強になるものだが何故かとても、言い表せることのできないもどかしさを感じた。


 初日の夜は地元の同期達と新たに仲良くなったこの都市の同期と、おすすめの店があると外へ繰り出した。

 それぞれの近況の話や、私の班の先輩の話など、鬱憤(うっぷん)を発散するように話が盛り上がった。

 彼女たちの班でも、先輩達は個人主義にこだわっている人が大半のようで、新人育成に関して皆も不満だらけだった。

 トレーナーが居るか確認したところ、支社によっては居るらしいが、全てではないらしい。

 しかし、居ないことの方が多いらしく、新人が一人で一辺通りの話法のみで営業に行くことは当たり前の会社だと分かった。


 翌日は約10組のグループに分けられ、モデルとされる事業所相手に法人契約に関する保険商品を案内する話法研修。商品も提案する保証も、モデルとして情報掲示された内容よりグループで考えるといった実践に近いものだった。


 グループは半分づつ、営業側グループと顧客側グループに分かれると、話法を考え発表し、一巡したら交代といった研修だ。

 前職でも同じような研修はあった。しかし、たった一日二日程度で習得できる程、甘くはない。

 話法に関しては断り話法でアドリブ交えて練習していた。断り話法とは、客と営業側に分かれ客はひたすら断る事、営業側は断られない様に言葉を探す練習をし、自信をつけ初対面でも怖がらず話せるような訓練だった。でもここでは全て成功したシナリオばかりで、実践的ではない。


 これは、実践にとっては基礎中の基礎だ。前職では約3ヶ月は実践研修室という部屋があり、営業の準備段階としてこの研修をひたすら反復練習させられた。

「女優になりなさい。女は誰でも女優になれるのよ。」この言葉は実践研修室室長の口癖だった。

 あの当時、私は保険の営業程、嫌で仕方がなかった。でも、一人で子供を育てて行くと自分で決めたのだからと言い聞かせて研修に臨んでいた。


 実際、話法の研修は一番苦手で、客側になってもしっかり対応することが出来ていなかった。

 それでも回数を重ねるごとに仲間たちが発する言葉が刺激になり、断ることが出来なくなる会話が出来るようになったりと、言葉遊びが出来るようにもなっていた。

 室長の口癖のように演技することも楽しく、話法研修が出来るようにもなっていた。

 この研修室を卒業するころには初対面でも躊躇なく話しかけられるようになっていたのだ。


 しかし、実体験はそんなにうまくはいかない。地盤固めの地区営業は断られることばかりでメンタルはボロボロだ。外に出ることがすごく億劫になる。

 それでも、人に合わなければ、話を聞いてもらうために外へ出なくては何にも始まらない。

 新人の頃は人に会うこと、話を聞いてもらうこと、これも仕事のうちだと教えてもらっていた。


 だから、前職では育成社員の緩和策として、既契約者のフォロー【契約内容の説明など】、面談回数【顧客と話すこと】も成績単位として認められていた。また既定の回数をクリアすると、営業に必要なノベルティ商品が貰えることが更にモチベーションを上げて折れそうになる気持ちを保ち、外に出るキッカケにもなっていた。

 ノベルティ商品は本来各自で購入することになっているため、新人の安月給ではとてもありがたいものだった。

 あの当時、ふと第三者的に「これは洗脳に近いかも」と頭の中で過ったが、良くも悪くもこの経験が今の私を作り上げていることは間違いなかった。


 その為だろうか、私は今の会社の育成研修に込みあげてくる何とも言えない気持ちが抑えられなくて、研修終りに育成部長に対して、意見を述べていた。

 研修の内容はとても勉強になるが、素人同然の新人には別にやるべき内容があるのではと、もっとじっくり保険商品の仕組みを説明できるように、他社の商品との違いを理解してこそ営業につながること。話法も成功例のシナリオだけでは実践で通用しないこと、新人には実戦で経験を積めるようトレーナーが必要なこと。

 そして育成期間だけは保険契約以外にも成績単位が稼げる仕組みが必要なこと。


 一気に捲くし立てた私に育成部長は一言、「なぜこの会社に来たんだ。元の会社へ行けばよかっただろう。」私もそれに対して「そう出来れば良かったかもしれません。でも、私の田舎には残念ながら支社もないので。」そう言葉を伝えた時、隣で聞いていた治代が涙を流しているのが横目に見えた。

 育成部長に頭を下げ彼女とその場を離れた。


 講師はいても指導者【トレーナー】がいない。これでは新人が育つことは難しい。

 研修の帰り道、治代は私の言葉に共感を持って悔しさから涙が出たのだと教えてくれた。私も育成部長のあの言葉には怒りが沸く。改善してほしくて意見を述べたはずだったが伝わっていなかったのだとムカついた。


 聞くと、ここ5~6年で生き残っている社員は一割も満たないほどだ。実際、私の班で先輩4人中、最も勤続年数が浅いのは6年目で、その次が私だ。主任が一番長く20年越えで、残り2人は15年目クラスだ。彼女たちの班でも育成社員を除けば、勤続年数が浅いのは4年目や5年目らしい。


 育成社員がいくら集っても、これでは育つはずの社員が次々と潰されていくのが目に見えていた。その内、定年で実力ある先輩達が居なくなる頃に会社は...なんて考えても仕方がないが、危うい会社だなとは思ってしまう。

 私は共感してくれた治代に、前職での育成時代のことを話していた。

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