育成社員 1
次は育成社員としての研修が始まる。
本格的に商品の勉強が始まり、担当する地区と顧客が割り振られる。
それに伴い、付与されているノートパソコンにデータ情報が登録された。
営業所内には数人で形成された班が存在し、新人は1人づつ振り分けられる。私は坂本主任の班に配属された。
班内の人数は私を含め6人、すべて女性のグループだった。
育成社員としての研修は、試験三昧の研修だった。休みなく詰込み型の研修で、息が詰まりそうだった。
損保試験、専門課程試験が同時に進行した。私は前職との期間が浅いことで、損保資格は継続することができた。おかげで専門課程試験に専念できた。
しかし、なぜ知識だけをこんなに詰め込まれるのか理解に苦しんだ。
育成期間は1年間だと説明を受けた。この1年間の給与は保証されている。
だから新人のうちは訪問活動ができるような話法や、商品の基本知識を覚え、営業するためのスキルを身に着けることが重要だと前職で教わっていた。
ここの研修では話法に関して、サラッと流す程度でセリフを覚えるような研修だった。
実践では何も通用しないことは見て取れた。なぜなら、このセリフを話すことすら出来ないことが当たり前の世界だからだ。
例えば車や家電など、見ただけで特徴や価格価値が分かる営業職より難しいとされるからだ。
保険商品は見えない商品と言われている。だから話を聞いてもらえなければ売ることもままならない。
そのため、保険の営業スキルで話法は一番重要だった。訪問の際に必ずと言っていいほど断られることが当たり前だからだ。
訪問する約束さえも断られることも当たり前、それを取り次ぐための話法が一番重要だと前職で嫌と言うほど叩き込まれていた。「女優になりなさい」これが講師の口癖だった。
だが、営業するにはまだ中途半端な状態で、たった一人で外回りをさせることに不信感が募り、更に育成期間にも関わらず半年後、査定が来ることに疑問があった。
私の班に私よりも4か月前に入社した先輩がいるが、そろそろ査定が来ると気落ちしていた。まるで、既に退職を覚悟しているようだった。
査定落ちしたぐらいで、まだ育成期間中に会社から追い出されると思っていなかった私は、先輩を励まして話を聞いてみた。
どうやら私の認識が間違っていたようだ。本当に査定落ちで、会社からたった半年で退職させられてしまうらしい。とりあえず、どの位足りないのか聞いてみた。
先輩曰く、残り約100万程。育成期間の報酬等級はA~Fまであり、月給の希望で入社時に選ぶことができる。しかし、大体の人はCを選ばされる。先輩も、Cを選んでいた。
約100万。2か月で100万必要ということは保険商品で言えば、医療保険を2件~3件は契約が必要だった。
他にも方法はあった。育成社員にだけの緩和策。自動車保険の見積もりをもらってくること。
しかし、1件につき1万だ。数をこなさないといけないが、上限も最大30件までと定められていた。
あと2か月でやりきるには、モチベーションを上げなければ厳しい状況だった。
それよりも、トレーナーと呼ばれる育成社員を補佐する社員が居ないことに呆れた。
居なければ先輩たちで穴埋めすることも出来るはずなのに、その様子も見られなかった。
私は何とかモチベーションを上げて先輩と一緒に外回りをしようとすると、別の先輩から「自分の心配をしなさい」と言われる。
次は私の番だから...。もう、彼女を救うこともしない先輩たちに憤りを覚えるしかなかった。
結局、先輩は2か月後、会社を辞めていった。




