鬼蜘蛛
魔王軍の兵士の体を食べつくした鬼たちは8本の足を持つ蜘蛛のような体に変化した鬼の頭部の後頭部には兵士の顔があり、苦しみもがいていた。
よく見ると、足の先はサーベルの様に鋭くとがっていた。
「ヒュンッ!」
王国軍の兵士は突然目の前にいた兵士の頭部が無くなったことに気づいた。
「エッ?」
次の瞬間、彼の目には自らの首がない体が目に入った。
魔王軍の兵士の体を食べつくした鬼蜘蛛たちは、突然その鋭い8本の手足で王国軍の兵士たちの首を、鎌で稲でも刈るように次々とはねだした!
「に、逃げろ!」
我に返って状況が理解できた王国軍の兵士たちは一斉に我先にと逃げ出した!
眼前の王国軍の兵士の首を一通り跳ね飛ばした、鬼蜘蛛たちは、今度は王国軍の兵士との頭部や体を食べ始めた。
同僚が鬼雲に食べられている隙に王国軍の他の兵たちは、走り出した。
運が悪いのは首をはねられない兵士達であった。首をはねられていれば、すでに死んでいるため、その間の痛みはなかったのであろうが、運よく剣などで、その攻撃を防ぎ、足等の切断で済んでしまった兵士たちは、生きたまま鬼蜘蛛の餌になった。
「ああああっ」
城壁の上で、ずっと一部始終を見ている魔王軍の将兵たちは一様に涙を流していた。
彼らを、さらなる恐怖と驚きが包んだのは、これからであった。
王国軍の兵士達を食べた鬼蜘蛛たちは、さらに巨大化した! さらに鬼蜘蛛の体には鬼蜘蛛たちが食べた王国軍の兵士たちの体が浮かび出た。
彼らの表情は一様に痛みと苦悶の表情で一杯であった。
結局は生きたまま食べられようが死んだまま食べられようが、等しく平等に同じ痛みを兵士たちは、与えられることになったのである。
「素晴らしい! 実に素晴らしい!」
城壁の上の魔王は、もはや偽らざる魔王であった! かつてこれほどまでに魔王らしい魔王はいなかったであろう!
ザンダーマは体中の震えが止まらなかった。そして魔王城から兵士達を送り出したことを心の底から後悔した!
「どうしたザンダーマよ! これこそ魔王軍の戦いであるな!」
魔王はザンダーマの表情など無視して、一つの方向を指さした!
「見よ! あの鬼蜘蛛はひときわ大きいな!」
ザンダーマはほぼ、無意識に魔王の指さす方向に目を向けた。それをみた彼の目から血の涙が溢れ出た。
そこにいたのは、他の鬼蜘蛛よりも2倍はあろうかという巨大な鬼蜘蛛であった。つまりそれだけ多くの王国軍の兵士を食しているということである。その鬼雲の体には数十の苦悶の兵士たちの顔が張り付いている。
しかし彼を驚かせたのは、そんなことではなかった。その鬼蜘蛛の頭部にある魔王軍兵士の顔が第1軍団軍団長アーグンドのものであったからである。アーグンドは魔王軍最強と言われた屈強な兵士である。それと同時にザンダーマの親友であり弟子でもあった。
アーグンドの顔は、その威厳のあるいつもの表情は、もはやどこにもなく、痛みと屈辱で苦悶の表情である。その目からはザンダーマと同じように血の涙を流していた。
「貴様!」
とうとうザンダーマは怒りで剣を抜いてしまった。周りにいた兵士たちも、あまりに突然のことで対処することができなかった。
ザンダーマの剣は、魔王の首をとらえた。
「えっ?」
しかし、それだけであった! ザンダーマの剣は確かに魔王の首を狙い魔王は避けもせず、その攻撃を受けた。しかしザンダーマの剣では魔王の首にかすり傷をつけることさえできなかった。
「貴様はいったい、何者だ!」
それがザンダーマの最期の言葉となった。




