新生活
オレ山田吾郎は長年勤めた商社を早期退職して、一人東北の奥深い山の頂上に立っていた。
「おおーっ」
オレは腹の底からの大声を出した。
「すっきりした! さてやるか」
吾郎は退職金をはたいて東北の山々を購入し、その最も奥深い山の一角にテントを張ったのが3日前であった。吾郎は長年のサラリーマン生活に疲れ一人DIYで山小屋を建てて、まだまだ長いであろう余生を過ごすつもりだった。
上司の紹介で結婚した妻とは数年前に離婚し、一人娘はすでに結婚し海外で暮らしている。吾郎は何にも縛られない山の生活を存分に楽しんでいた。3日の間は渓流で魚を採り、山小屋を建てることができる平たんな場所を、のんびりと探し回っていた。
「よし、今日こそは、山小屋の場所を決めるぞ」
吾郎は大きく背伸びをして、山を下り始めた。しばらくすると変わりやすい山の天気は大粒の雨に変わった。
「ひどい雨だな!」
吾郎は足早に雨宿りできる場所を探した。雨は勢いを増し、視界が遮られ、整備されていない山道には笹や竹が群生し吾郎は、手足や顔のあちこちに擦り傷をつくったが、山に入って3日たった今、そんなことは気にならなかった。
しばらくすると吾郎の目に人一人がぎりぎり入ることのできる小さな入り口の洞窟を見つけた。
「ここにするか」
吾郎は頭をかがめながら、洞窟の中に駆け込んだ。
「少し奥に行くか」
吾郎は懐中電灯をつけ、奥に進んだ。天井の高さは150cmほどで身長が170cmの吾郎には少し窮屈であったが、洞窟内は自然にできたものとは思えないほど綺麗で、草木もなく虫一匹見当たらなかった。
「なんなんだ、この洞窟・・・・」
奥へ奥へ進んだ吾郎は100メートルほど歩くと、ようやく洞窟の行き止まりにたどり着いた。そこには少し土が盛り上がっておりその真ん中に1メートルほどの岩がたったいた。
さすがに疲れた吾郎はどかっと腰をおろし岩を抱き枕の様にして眠ってしまった。
全身びしょぬれになった吾郎の額や頬からは雨水や汗、そして笹などで切った切り傷から血がしたたり落ちている。吾郎が抱きしめている岩はそれらをゆっくりと吸収しているようだった。




