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大和の薬師  作者: ガランドウ
第一章  暗闘
7/9

#7 因縁

 四ツ谷屋敷の門を潜ると5、60m程先に寺のような屋敷が見え、そこに至るまで真直ぐに伸びた幅3mの石畳が敷かれている。

 石畳の両側には、数m置きに石灯籠が建てられ、蠟燭によって明かりが灯されている。その為、屋敷までの通路は明るく、逆に両側に広がる庭園は暗さが増して、黒い影の縁取りにしか認識できない。


 (アキラ)の両翼に付き従うは、右翼に宮迫(ミヤサコ)、左翼に君下(キミシタ)の2名。

 2人はフロントラインの隠れ家襲撃の際、ミド○ンジャー扮する宮迫、アオ○ンジャー扮した君下である。だが今回はそんなコスプレは鳴りを潜め、黒のコンバットシャツにカーゴパンツを着込み、宮迫は両足に強化プラスティック製レガースを填め、君下はサイレンサー付きワルサーPPKを右手にぶら下げている。


 顕は門を潜った先で一瞬立ち止まったが、両翼を2、3歩先に進む2人の先行に併せて歩み始めた。

 堂々と真っ直ぐ屋敷を見据えて歩く顕に対して、宮迫と君下は腰を屈め、周囲を警戒しながら進む。


 「お願いします」

 「おう!」

 顕の呼びかけに、右翼を進む宮迫は振り向くこともなく右前方の石灯籠へ跳ぶ。

 軸足での着地と同時に、上段回し蹴りを石灯籠に繰り出し、粉々に粉砕した勢いのまま、その後ろに潜んでいた(ゾク)の側頭を蹴り抜く。


 宮迫の攻撃に動揺したのか、左側の石灯籠に潜んでいた賊は石畳の中央に躍り出るが、頭を弾かれたように仰向けに倒れる。

 腰を屈めワルサーPPKを賊に発砲した君下が、そのままの姿勢で倒れている賊の側によると、胴に2発撃ち込み止めを刺す。


 尚も警戒しつつ、2人はゆっくりと顕の元まで下がると、前方10m程先に5人の人影が現れた。


 「君下さん、飛び道具は無しで行きましょう」

 顕の指示に、君下は無言でワルサーPPKのサイレンサーを外し、ホルダーに仕舞う。


 5人の人影の内一人が前に進み出る。

 「お?タイマン勝負かよ」

 「いや違うでしょ、何考えてんの?宮迫さん」

 宮迫は喜々とした表情で拳を鳴らしながら前に出ようとするのを、君下が止める。


 後ろに残る4人の人影の内2人が、両サイドの石灯籠を踏み台にして高く飛び上がる。

 それに併せて前に立つ一人が顕を見定め、真っ直ぐに突っ込んでくる。

 空中に舞い上がる2人は、一様に脇に差した日本刀を抜き、振り被る。

 顕ら3人は、それぞれの獲物を無言のまま捉え、迎え撃つ。


 「おおう!」

 気合と共に宮迫は、頭上から振り抜かれる刀に体を回転させ紙一重で躱しながら、回転をそのまま後ろ回し蹴りに移行し、賊の顔面を蹴り抜く。

 「ビタン!」と蹴りをまともに受けた賊は地面に張り付き、卒倒する。


 片や君下は賊の攻撃をギリギリまで引き付け、刹那の瞬間、左胸に差していたコンバットナイフを一閃。

 「ギン!」と刃同士がかち合い、降り立った賊の日本刀だけが真っ二つに折れ、そのまま賊は倒れ込んだ。倒れ込んだ賊の肩口には、君下のコンバットナイフが突き刺さっている。


 顕に対し真っ直ぐに突っ込んでくる賊は、身長190cmはある筋肉隆々の巨漢。

 無手のまま顕に掴みかかろうとするが、顕はその手を片手でパリィし弾くと、賊は体勢を崩し前のめりになる。

 この機を逃さず賊の両腕を抱き込むように両腕でがっちりホールドをすると、顕は巨漢を引き摺りながら背に向かって倒れ込む。


 「オイオイ・・あんなデカいのにアレやるか普通?」

 顕の攻撃体勢を目の当たりにし、宮迫は呆気に取られる。


 顕はホールドしたまま、後ろに弧を描くように投げを放つ。

 「や、やめろぉ!!」

 両腕を顕に抱き込まれ、受け身の取れない巨漢。

 

 

 「フルネルソン・・しかし、相手の腕の取り方が異様」

 「違うぞ君下!これはアームロック、ダブルアームロック・・しかも相手を正面に投げるこの技は」

 考え込む君下に対し、宮迫は目を輝かせ、その技を声高に言い放つ。

 「禁じ手ダブルアームロックサルト!」

 顔面から石畳に「ゴォン!」と鈍い音を立て打ち付けられた巨漢は、白目を剥いて失神した。 


 「イェーイ!」

 宮迫は顕にハイタッチを求め、顕は求めに応じ「パン!」と宮迫の掲げた手を弾く。

 「やっぱ顕さんと言えばプロレス技よ!」

 「しかし、よくその身体(シンタイ)であんな技が・・あ、いや失言でした申し訳ありません」

 興奮気味に語る宮迫に対し、君下は決して大きくはない体にも関わらず、顕の底知れないパワーに驚嘆するが、言葉の不敬に気付き頭を下げる。

 

 「ううん、気にしてないよ君下さん」

 顕はにこやかに君下の謝罪を受け入れた。

 「それに僕はまだまだだよ。色んな技を教えてくれた人は・・教えて・・あれ?僕は誰に教わったんだ?」

 宮迫に向かって話していた顕が不意に考え込み、自身の記憶を手繰るが、答えが出ない。


 残っていた2人が後ろに下がり、顕らの行く手を阻むように10人程の賊が集結する。


 宮迫と君下が顕の前に出る。

 「露払いは任せて下さい。顕さんは奥のヤツを頼みます」


 君下の言葉に顕は考え込むのをやめて小さく頷き、左上腕に取り付けた四角いポーチを手で触れた。

 「()」と呟き、ポーチの下部から突き出たピレットを抜き取り両手で握り込むと、その両手が緑に輝く。

 輝きを放つ両の手を、それぞれ宮迫と君下の背中に充てがうと、2人の全身も緑の蛍光色を纏う。

 「キター!顕さんのドーピング!」

 宮迫は全身に気を漲らせる仕草をし、君下は俯き顕に与えられた力を実感するように何度も頷く。


 「ドーピングって言わないの、まったく・・はい、いってらっしゃい」

 顕は充てがっていた手を軽く押すようにして、2人を送り出した。

 



 「う〜ん、やっぱ向こうにも薬師いるねぇ」

 「はぁ?アンタ、見て分かんないの?只の薬師じゃないよ、あれは相当ヤバい」

 屋敷玄関へ上がる階段の途中にまで下がっていた2人が、顕を見て考察していた。


 「ミカはアレ殺れそうか?」

 「無理」

 「即答!?」

 男はミカという女に呆れ顔をし、項垂れる。

 「じゃあ中村、アンタは勝てるの?」

 ミカは相棒の男、中村の態度に苛立ちを見せる。

 「俺?無理に決まってんじゃん、まだ俺は修行中の身よ?」

 当然のように威張って言う中村。

 「はぁ・・じゃあ逃げるしかないじゃん?折角頭領が出張(デバ)ってんのに、留守番がこれじゃ私の作戦が・・」


 2人が逃げる算段を講じている時、後ろの玄関の門が開かれ、一人の女性が姿を現した。

 「引くことは許されませんよ。何の為に卓様自身が囮役をしているのか、分かっているのですか?」

 上下グレーのビジネススーツを着込んではいるが、丈の短いタイトスカートであるが故、一見すれば秘書のように見える。


 「機動組、北川セツ・・」

 ミカは現れた秘書のような女性、北川セツを見上げ、顔を強張らせる。


 セツは170㎝を超える身長の為、ミカを見下げる様な格好になり、しかも鋭い眼光を有しているが為に威圧感がある。


 「まぁまぁセツさん、俺らは何も逃げるつもりは無いっすよ?ただ、薬師会の連中にヤバいのがいるっていう想定外っていうか・・あれ?セツさん聞いてる?」

 セツに陳情する中村であったが、セツの視線が自分らではなく、その先の戦闘状態にある集団に注がれている。

 「ミカ、あなたの立案では沖玲子をここに引き付ける筈・・なのに・・」

 戦闘に加わらず、こちらに悠然と歩んでくる薬師にセツは目が離せず、言葉を詰まらせる。


 「おぬしら、引けぇい!!」

 突如、四ッ谷の賊に向け、号令が響き渡る。

 それを聞いた賊らは、宮迫らに倒された仲間を置き去りに後方に跳んで退却し出す。


 「ああ?んだよ・・調子出て来たトコなのに、よ!」

 宮迫は愚痴を垂れながら、地面に倒した賊の顔面に突きを入れ、止めを刺す。

 「宮迫、屋根の上を見ろ。どうやらアイツが頭っぽいぞ」

 君下は手に持ったコンバットナイフで、屋根の上に立つ人影を差した。


 10m程ある瓦屋根の高さから人影が立った姿のまま、ストンと垂直に飛び降り着地する。

 「セツ、お前はここで待っていなさい」

 しわがれた声で後ろに控えるセツに、振り向きもせず声を掛けるは、銀髪の老人。

 背は低いが腰は曲がってはおらず、ピンと背筋が伸びた立ち姿は、しわくちゃな顔でなければ老人とは思えない程だ。


 顕はその老人が現れてから歩みを止め、腕を前に組んで状況を見守っていた。


 「いえ、私もお傍に」

 セツは老人の言い付けを断り、横に並ぶ。

 「・・勝手にしなさい。だが、覚悟は致せよ」

 老人は薄い目をセツに向け了承すると、後ろにいるミカを見る。

 「お前たちはもういい、下がって負傷者の手当をしていろ」

 老人の下知に、中村は何か言いたげにするがミカはそれを遮り、下がってきた仲間と共に門の中に戻っていく。


 老人はミカ達を見届けることなく、門前の階段をゆっくりと下り、顕の前に正対する。


 「顕さん!」

 「二人は離れていてくれる?」

 宮迫が老人の前に出ようとするのを顕は止め、君下には視線をくれて離れさせる。


 顕と正対する老人と、一歩斜め後ろに下がって立つセツが、「ザッ」とその場で片膝を付き、顕に対して頭を垂れる。

 対峙した目の前の老人から殺気が感じられず、腕を組んだままでいた顕だったが、突然の行為に呆気にとられ何も出来ずに硬直してしまう。


 「またこうしてお逢い出来る日が来ようとは・・僭越ながらこの北川、もう顕様とは・・くっ・・」

 老人北川は、頭を垂れながら嗚咽を漏らし、石畳に涙を落とす。

 「顕様とは知らず、ご無礼を・・誠に申し訳ございません」

 セツは顔を上げ、申し開きと共に潤んだ瞳で慈しむように顕を見る。


 「ちょ、ちょっと待ってください、突然何を言っているんですか?訳が分からない」

 敵対する相手が唐突に膝を屈し、それでいてさも自分を知っているかのように敬う行為に、顕は激しく動揺する。

 「顕さん、この人らはどういった・・」

 君下は顕に近づき、膝を屈する2人を見るが、君下もこの2人の事は知らないようだ。


 「薬師会の者に、語る口は持ち合わせてない!」

 「止めいセツ、何よりも顕様の前だ。慎め」

 セツは君下を苦々しく睨み付けるが、老人北川はセツをしかり付ける。


 「何は共あれ、まずワシらの事をお聞き頂けますか、顕様」

 変わらず俯いたまま語る北川に、顕は思い悩む。

 「今の顕様のお立場、重々承知をしております。然るに私共の語りをお聞き頂いた後、この北川兆治(チョウジ)の首、取って頂きとうございます」

 自らの命を差し出してでも、顕に聞かせる事があるのだという覚悟を目の当たりにした顕は、北川兆治の前で屈み、その年老いた背中に手を置く。

 「話は聞くよ。でもね、あなたの命を奪わないから。それにセツ・・さんかな?そんな顔で僕を見ないでよ、なんか僕、悪いことしちゃったかな?」

 顕は北川の申し出を承諾し、セツに対して悲しげな顔を向ける。


 セツは涙を流し、くしゃくしゃにした顔を真っ直ぐ顕に向けていた。


                ・

                ・


 福知山の山荘、静江と卓との対峙が続く場に戻る。

 

 静江の語りに耳を傾け続けていた卓が、両手を腰に当て体を小刻みに震わせる。

 「くっくっく・・そうか、アキラがいるのか。あははっ!」

 含み笑いであった笑いが、次第に胸を張り、声を上げて笑い出す。

 「何がそんなに可笑しいの?気でも触れちゃったのかしら?」

 卓の様子に静江は嫌悪感を露わにし、顔をしかめた。

 「ははっ・・オイ静江、失礼なこと言うなよ?こんな楽しい事ないだろうが!」

 静江に苦言を言うも、笑顔は顔に張り付いたままだ。


 「あ、そう。じゃあもうアンタの置かれた状況は理解したって事だね。後はアンタを始末すれば事は丸く収まるの、お分かり?」

 静江はその場で2、3度跳躍をし体をほぐす仕草をした後、卓に対して構えを取る。


 卓は真顔に戻り、静江に対して手を真っ直ぐに伸ばし、その手をVサインに変える。

 「は?何それ、意味わっかんない」

 静江は卓のサインを挑発と捉え、怒気を漲らせる。

 「二度だ。静江、今まで二度、俺とアキラとの絆が生まれている」

 卓はVサインを引っ込め、静江に柔らかな笑顔を見せる。

 「アンタ何言ってるの?絆?笑わせないでよ、私はアンタがアキラにしたことを知らないとでも思ってるわけ?」

 静江は怒りに一層の怒気を漲らせ、卓を睨み付けた。

 

 「お前には分からない、俺達()()の絆、大和の薬師としての絆がな」

 何故か卓は充足感がにじみ出る表情をし、空を見上げる。

 「そして今回、三度目の絆が生まれる・・そうだよな?アキラ」

 見上げた空のその先に顕の姿を想像しているのか、目を閉じて大きく息を吸い込む。


 「生まれないわよ!」

 静江がたった一歩の跳躍で卓の眼前に迫る。

 「アンタはココで終いなの!」


 静江は右腕を大きく振りかぶり、卓の顔面目掛けて渾身の右ストレートを繰り出す。

 跳躍しながらも身体の柔軟性を大いに生かし、体の軸を限界まで捻り込んでから解放する為、あからさまな攻撃ではあるが、静江を見ていない卓に避ける術は無いとの大振りではある。

 だが卓は、眼前にまで迫る静江の拳を見る事も無く、右手を弧を描くように回し、静江の手首に手刀を併せると同時に体を半身に開き、()なす。


 往なされた事により卓に背面を取られる格好になった静江は、地面に着地した足を軸に身を回転させながらもう一方の足を頭上高く振り上げ、軸回転が正対するタイミングで卓の肩口目掛けて振り下ろす。

 さすがの卓も目を見開き、袈裟切りに下ろされる蹴りに引くのではなく、素早く半歩踏み込み、静江の蹴る足の関節部分を中腰で肩に受ける。

 静江は大股に広げた足を肩に担がれた格好になり、頭を下にしたまま卓を見上げる。


 「なっ・・」

 完全に有利な態勢になっているにも拘らず、驚愕の声を上げたのは卓だ。

 静江の片足を抱え込んでいる卓にとって、後は持ち上げるなり、そのまま足に関節を決めるなり好きに出来る態勢なのだが、二人とも微動だにしない。

 

 「どんな脚力してんだ・・」

 中腰の姿勢で足を両腕で肩に担いでいるのだが、卓は持ち上げることも出来ず、逆に押し込まれる程肩に重圧がかかる。

 「私の足をそうやって触っておきなさい・・今だけ許してあげる」

 卓を見上げる静江の顔には必死さはなく、どこか妖艶さを醸し出す。

 力の均衡は崩れ、卓は次第に押し込まれ片膝を地面に付く。


 「いつの間にか体術全般に能力が施せるようになってたか・・」

 圧される力を察する卓ではあるが、今までの様に涼しい顔でいられなくなっている。

 「だがしかし、お前のエロいおみ足には名残惜しいが、俺はドSなんで女に膝まづく訳にはいかないんだよ」

 卓は苦々しく言い放つと、足を抱え込んだ両手に能力を発動させる。

 「 (サン) 」と呟くと同時に、両手から光が灯る。


 余裕を見せていた静江から笑みが消え、眉間に皺が寄る程に卓を睨み付ける。

 「やれるもんならやってみな!足一本でアンタをバラせるなら安いものよ!」

 静江は一層の力を足に込めたのか、卓の肩に足がメリ込み出す。

 「くっ・・誰も足だけ貰うとは言ってないが?」

 静江の足を掴む両手の光が、足を伝播して行き、静江の足に密着しているボディスーツが縦に裂け解れていく。

 剝き出しになった素足に赤黒い血管が浮き出していくが、それでも静江は力を解かない。


 「いい加減、足退けろよ!」

 卓は上部僧帽筋が裂けていくのを感じ、苦痛に顔を歪める。

 「アンタこそ手を離しなさいよ・・」

 卓の伝播する光が、足を通り越し、右半身のボディスーツをボロボロにしだし、見える素肌が赤黒くうっ血している。


 「そこまでです!!」

 唐突に女の声が響き、その声の主が卓と静江の間に体を滑り込ませると、二人に両手を広げるように掌底を当て突き飛ばした。

 突き飛ばされ二人は、もんどり打って転がっていき、それぞれ木に激突し動きを止める。

 

 文字通り二人に割って入ったのは、ダボ付いた黒いニットを着込んだ百合。

 キッと卓を睨みつけながら、静江の方へ後退る。

 「静江さん、しっかりして!」

 横たわる静江は痛みに顔を歪めながらも自ら体を起こす。

 「アンタの掌底が痛いわ・・」

 掌底を受けた腹を擦りながら、百合に苦言を呈す。

 「ごめんなさい、今治しますから」

 「シッ!百合、今その力使っちゃダメ・・私は大丈夫だから」

 両手を合せ、能力を発動しようとする百合の手を静江は抑え、小声で百合の行動を止めた。


 「いてぇ・・何てことしやがるんだ、まったく」

 静江に食らった左肩を押さえながら、ゆっくりと立ち上がる卓。

 「ふむ・・肩が上がらん・・肩の肉がゴッソリ持って行かれたか」

 左腕の具合を確かめようとするが、ダラリと垂れ下がったまま動かない。


 「にしても酷いことするなぁって、ん?あれ?君は確か・・」

 静江の前に立ち塞がる女性に目を留め、卓は記憶を手繰り寄せるように考え込む。

 「卓さん、その様子だと私の事覚えてるようですね?」

 百合は姿勢を正し、卓を射殺す程に視線で見詰める。

 「お?何だか怖いけど・・ああそう、思い出したよ!」

 卓はウンウンと頷き、百合を指差す。

 「あれだ、アキラの彼女、草加百合(クサカユリ)ちゃんだっけか」

 「か、彼女・・ち、違います!違いますけど・・」

 卓の回答に酷く動揺し、両頬に手を当て体をくねらす百合。


 「何をやってんだい百合・・アンタはいいから下がってな。アイツの相手は百合には無理だよ」

 静江は百合を下がらせようと百合の肩に手を置くが、百合はその手の上に自分の手を重ねる。

 「静江さんは休んでて下さい。私にも卓さんに聞きたいことがあるのです」

 そっと静江の手を握り、「 () 」と唱えた百合の手が青く輝く。

 静江の露出した半身に、痛々しく浮き出ていた赤黒い血管が鳴りを潜め正常化していく。


 「ほう、百合ちゃんは力を得たのか」

 卓は感心するように顎に手を置き、百合の能力を眺める。

 「はぁ、バカ百合・・卓の前で力を見せちゃダメだってば・・」

 百合の失態を咎めるが、治癒されていく事をため息混じりに受け入れる。


 「まぁそう邪険にするなよ静江。俺だって鬼じゃない、アキラの彼女に手荒な真似しないっての」

 静江の物言いに口をへの字にして、否定を述べる卓。


 「卓はそこいらの薬師とは違い、アイツは薬師の能力を()()んだ」

 静江は百合のおかげで回復した体を点検するかのように、肩周りを動かしながら卓の秘密を百合に告げた。

 

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