番外編短編・お弁当
隆さんから求婚の言葉を貰い、毎日落ち着かない日々を過ごしていた頃の話だ。
ミッションスクールには、毎日楽しく通っていたが、婚約者と同居しているという常時は時々心臓に悪かった。
いつものように時々勉強を教えて貰う為、牧師館の書斎で二人きりになる。
別に勉強を教えてもらっているだけだ。色気皆無の英語の話題だ。サラがカバンを忘れて困っただの、ロンが仕事の予定が立てられないなど、実用性に乏しくつまらない英語の文を読んでいるだけだ。
それでも距離感が近く、隆さんの大きな鉛筆を持つ手紙などを意識してしまったりもする。
一方、隆さんは平然としたものだった。関係代名詞や前置詞の説明を、時に厳しく時に優しく、本当に先生のように教えてくれているだけだった。
「ところで、志乃」
「なんですか?」
てっきり勉強の話題かと思ったら、違った。明日、隆さんの職場の学校では、食堂の工事があり、弁当を持参しなければならないという話だった。
「それは困りましたね」
「困ったよ」
ちょっとわざとらしく、隆さんは私の目を見ていた。その目を見ていたら、彼が何を言いたいのか感じ取ってしまった。
「もしかして。お弁当作りましょうか?」
「いや、別に無理しなくていいんだ」
そうは言っても、どこか期待するような目で見ている。やっぱりこれは明日、弁当を作るしか無いだろう。自分の分も作らなければならないし、大した手間ではない。
「いえ、私が弁当を作ります」
はっきりという。
いつもはこうして勉強も教えてくれるし、大好きな婚約者に恩返しできる事は積極的にしたかった。
翌朝、早くおきて弁当を創った。曲げわっぱの弁当箱にご飯、卵焼き、ひじきの煮物、サバに塩焼きをいれる。最後にご飯に梅干しを乗せて完成だ。一般的な弁当だが、隆さんに喜んでくれれば嬉しい。
隆さんがいつも私より早く学校に行くので、見送りがてら玄関で弁当を渡した。
「ああ、志乃。本当にありがとう」
「喜んで貰えたら嬉しいわ」
まだ婚約してさほど日は経っていないが、こうしていると本当の夫婦みたいで恥ずかしくなってきた。
一部始終を見ていた教会の子供である太郎くんは、呆れたように呟いた。
「志乃姉ちゃんの卒業を待たずに、さっさと結婚しちゃえばいいのに」
ちなみに弁当の中身は全部空になって戻ってきた。
いつもは洗い物の家事はちょっとめんどくさいが、弁当箱の容器を洗うのはとっても幸せに感じてしまった




