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小さな迫害編-4

 夜が更けていた。


 私達夫婦は寝室に布団を敷き、寝る準備をしていた。風呂に入り、髪を軽く乾かして、一つに纏める。


「隆さん、お風呂上がりましたよ」

「ああ、もう寝るか」


 と言っても眠る気になれず、しばらく明かりをつけっぱなしにしていた。


 二人とも布団の上で脚を崩して座る。


「塚田さん、どうするんですか? 私はあなたの言う事に賛成するしか無いですけど」


 あれから、塚田はここに住まわせて欲しいと懇願し、結局追い出せず、客間に布団を敷いて、今晩はとりあえず泊まって貰う事にした。確かにもう夜だし、追い返す事などは人として出来そうになかった。


「まあ、しょうがないから、しばらくウチに置いとくか」

「本当?」

「ああ。まあ、困ったもんだな。借金があるなんて」

「でも、あなたの作品が好きだなんて誇らしいわね。お弟子さんにする?」


 私はちょっと笑いながら言う。塚田なら弟子にしても良いと思ってしまった。


「実はそうしようかと思う」

「え? 本当?」


 あっさりと塚田の提案を受け入れているので、私は逆に驚いてしまった。


「なんでですか?」

「いや、あの男は才能があるのだよ。悪魔的な題材にさえ手を出さなければ、伸びると思う」


 なぜか隆さんは、微妙な表情を浮かべていた。


「悪魔的なものを書くと、一時期は売れるのかしら?」

「ああ。でも、悪魔に魂を売っても行く先は地獄だろ」

「そうね。それは困ったわ」

「それに心も石になるんだよ。魂を売ると、神様が備えてくれた良心が消える。人のきもちや痛みも分からなくなる。そんなヤツに良い小説は書けないだろう」

「そっか」


 珍しく熱く語る隆さんに、私は深く頷いてしまった。


 隆さんの小説は、登場人物の気持ちの動きが手に取るように描かれていた。華族のお嬢様が主人公の話が多いが、書いている隆さんは、よくその立場の人間が分かると関心するほどだった。


 ただ、隆さんの仕事にはあまり口出ししないようには、していた。夏実さんの件では、大騒ぎして大変無い事になってしまったし、聖書に書いてある通り女性は静かに慎ましくしているのが良いと思う。


「わかったわ。塚田さんの事は、あなたの言う通りにします」

「ああ、頼む。そうしてくれるとありがたい。あ、寝る前に聖書読もう」

「ええ」


 私は笑って頷いた。


 妊婦になってからは、夜はゆったりと過ごしていた。枕元に聖書を置き、朗読したり、隆さんに解説して貰ったりして過ごしていた。もっとも聖書の話題は、いつもしていたので、そんな変化した事では無いが。


「今日は、ヨハネの14章あたり読むか」

「私、あのあたり凄く好き!」


 聖書を開きながら、思わず子供のような声が出てしまった。この箇所は、イエス様が最後の晩餐の時に弟子達に語る言葉が書かれている。


 特に18節から20節は、実際孤児だった私にはとても響く言葉だ。


 しばらく二人でヨハネ14章を交互に朗読していた。18節から20節を読むとぐっと胸に込み上げてくるものがあった。


「ところで、助け主である聖霊様って父なる神様とイエス様に比べて、ちょっとお働きが分かりにくいというか、難しいわね。助け主って聖霊様の事だと思うけれど、どう言った意味?」


 聖書で書かれる神様は、父なる神様、イエス様、聖霊様の三位一体だ。ただ、私は聖霊様の意味が少し掴めない所があった。父なる神様やイエス様は人格があるように見えるが、聖霊様はその点はいないちピンとこない。


 私のこんな初歩的な質問も隆さんは、丁寧に答えてくれた。


「聖霊様のお働きは、祈りや悔い改めを導いたり、イエス様を主だと宣言させたり、御言葉を思い出させ、力づけて慰めてくれれる存在だな」

「そういえば……」


 思い当たる節がいっぱいあった。自分の悪かった所をふと思い出したり、心が挫けそうな時に御言葉を思い出して頑張った事もある。ミッションスクールの受験は大変だったが、最後まで挫けず挑めたのは、何回も御言葉を思い出して、心の支えになってくれたからだ。


「13節で求めるものは何でもわたしの名によってお与えになるって書いてあるけど、これはどういう事?」


 私は続けて質問した。


「これは聖霊様を送ってくれるという意味だ」

「これを勘違いして、ご利益宗教のように金や異性を願うものもいるが、そういう意味では無い」

「やっぱりそうなのね」


 隆さんの言葉に深くうなづく。


「我々の神様は、この世の願いを叶える為にいるわけでは無い。むしろクリスチャンは神様が望んでおられる事を行わないとな」

「そうね」


 再び深くうなづく。


 確かに神様に願いを祈る時もあるが、神様が望んでおられる事と一致しないと絶対に叶う事はない。だから、いくら私が金持ちになりたいと願っても叶う事は無いだろう。


「日本人は神様を勘違いしているよ。願いを叶える為にいると思っている。本当は、人間は神様に造られたもの。一瞬で我々の命を奪う事だって出来る」

「そうね。うちの両親なんかご利益ばっかり求めて神社の行ってたわね」

「そうだろう?ご利益宗教と偶像崇拝は、とても相性が良いね」


 隆さんは深いため息をつく。日本人の神様に対する態度を思うと気持ちが暗くなっていくが、こんな時こそ祈らないと思った。


 しばらく夫婦で日本人や塚田さんの事について祈った。また、今日一日何か罪を犯さなかったか思い出しながら、お互いに言い表した。


 夏実さんの事件の後から、夜眠る前には自然とするにもなっていた。


 隆さんは職場の生徒にイライラした事、私は塚田にあまり良い印象は持てなかった事などを告白し、悔い改めの祈りをした。


「じゃあ、眠るか」

「そうね」


 灯りを落とし、二人とも布団に入った。とはいえ、少し肌寒さも感じ、しばらく口付けを交わした後、結局同じ布団の中で眠ってしまった。


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