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讃美歌編-4

 翌日。


 あんな霊媒師の事件があった事が嘘のように、いつものような日常だった。


 朝食を作り、隆さんや塚田を送り出して子供達の面倒を見た。


「志乃姉ちゃん、一緒に遊んで!」


 文子ちゃんにせがまれて、教会の子供達と一緒に遊んだ。

 牧師館の子供部屋で、女の子達と折り紙を折ったり、おままごとをした。


 男の子達は、外に遊びに行ってしまった。霊媒師の事件が解決したので安心して遊びに行ったようだった。


「沙里子ちゃんは、折り紙好き?」


 私は部屋の隅で一人で折り紙をする沙里子ちゃんに話しかけた。


 まだ教会には馴染ていないようで、あたりをキョロキョロと見ている。


「霊媒師のところでは、本当に何もなかった?」

「うん」

「それは良かったわ」


 私が沙里子ちゃんの頭を撫でた。誘拐される前は春人くんに辛く当たっていたようだが、今はすっかり大人しい子供になっていた。


 憑き物が落ちたようにも見えた。沙里子ちゃんに悪霊がついていたかは謎だが、やっぱり何か影響はあったと思われた。もっとも朝比奈さんは沙里子ちゃんに辛く当たっていたようだし、実際生贄までに捧げているから、今は同情心しかない。


「ねえ、志乃姉ちゃん」


 沙里子ちゃんは、私の着物を裾を引っ張る。少し甘えているようだが、あんな事があった後だから仕方ないだろう。牧師さんにも沙里子ちゃんの様子は注意深くみるように頼まれていた。


「なに?沙里子ちゃん」

「牢屋で歌っていたお歌何?沙里子も歌いたいんだけど」


 恥かしそうに聞いてくる沙里子ちゃんは、ちょっと可愛らしい。この子の将来は、いろいろと大変である事は予想できるが、せめてこの教会のいる間は、心安らかに過ごして欲しいと思った。


「あれは、讃美歌っていうのよ」

「讃美歌?」


 始めて聞いた言葉のようだった。折り紙にはもう飽きてしまったようで、私の話を興味深そうに聞いている。


「讃美歌ってなの?」

「私達の信じている神様を褒め讃える歌よ。興味ある?」

「うん!」


 沙里子ちゃんは、笑顔で頷いていた。話をよく聞くと、沙里子ちゃんは音楽が好きで、家にもピアノがるという。やっぱりお嬢様である事は間違い無いようだった。この時代に家にピアノがあるのは珍しい。教会にあるピアノも牧師さんに値段を聞くと、かなりの値段だった。だからピアノの周りを掃除したりするのは、ちょっと気を使ってしまう。


「ちょっと小声で歌ってみる?」

「いいの?」

「待って、楽譜持ってくるわ」


 私は牧師さんの部屋から讃美歌の楽譜がまとめられた本を持ってきた。


「主は大いなる方〜♪」


 小声だが、沙里子ちゃんに視線を合わせて座って歌ってみた。


「しゅは、大いなる方〜♪」


 沙里子ちゃは、少し遅れて私と声を合わせる。そんな私達を見た他の子供達も集まってきて、気づきとみんなで一緒に歌っていた。


 子供達の明るい歌声が部屋の中に響いた。


 上手い歌なのかはわからない。ただ、一緒に歌っていると、この歌声が天国まで届いていくような映像が頭の中に浮かぶ。


 天国ではきっと神様を褒めたたえる歌がずっと響いている事だろう。


 私が神様の為に出来る事は、そんなに無いのかも知れない。献金も大きく出来るわけでもなく、奉仕も限界がある。


 神様が私にして下さった事の比べれば小さな事だろう。


 ただ、ずっとこの歌を歌っていたかった。天国に行ってもずっと歌っていたいと思った。

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