花嫁の願い編-6
朝比奈さん、向井と一緒の町の警察に向かう。
家から川沿いの道を三人で歩いていた。
朝比奈さんは泣き疲れて顔がボロボロだった。私がついていく必要はないが、悲しんでいる朝比奈さんを放っておく気分にもなれなかった。それに向井が余計な一言を言って朝比奈さんを怒らせる可能性もあった。
「それでゆうかされた子供達はまだ生きているのね?」
私は一番気がかりの事を念を押す。
「たぶん。榊原先生は、ハローウィンの夜に火で焼き殺すって言っていたから」
「酷いなぁ」
向井は顔を顰める。
向井はまだ半信半疑なところがあるようだが、やっぱりり聖書を読むと世の中には悪魔を拝んでいる人がいて、悪魔を喜ばせる為に生贄儀式をやっている人間もいると思う。
川辺は、ゆうか事件などなかったかのように静かで落ち着いていた。今日は警察も居ないようだが、子供も1人もいなかった。
「そういえば、何で私の事をぶったの?自分で誘拐しているなら、必要ないんじゃないかな?」
単純に疑問だった。
沙里子ちゃんが居なくなった時、朝比奈さんに頬をぶたれたが、事情を全て知った今はなぜそんな事をしたのか謎だった。
「そうだよ、全く暴力女は怖いね」
「向井さん。あんまり挑発しないで下さいよ」
向井は朝比奈さんを激昂させそうだったので、一応釘を刺した。とはいえ、向井の説得も朝比奈さんの心に届いたようで、こうして一緒に来てくれるようになったわけだが。自分一人では朝比奈さんを説得出来たか自信が無い。
「羨ましかったのよ……」
ぼそっと朝比奈さんはつぶやいた。
「あんたは、この町内でもけっこう有名なのよ。孤児から幸せな結婚をしたって。夫は奥さんに首ったけの馬鹿だって言うのもね」
「あはは、それは事実だから仕方ないね!」
向井は腹を抱えて大笑いしていたが、私は恥ずかしくて俯いてしまう。私は外で隆さんの自慢はした事はないが、私達夫婦が仲が良いという事は町内でよく知られてしまっているようだった。
「その上、子供のできて。順調過ぎて、つい嫉妬してしまったの」
朝比奈さんは隣を歩く私のお腹をちらりと見る。確かに今の自分は恵まれている。朝比奈さんが嫌な気分になってしまったのも仕方ないと思った。自分だって孤児として生きていた時は、人を恨んで生きていた。朝比奈さんを責める権利は私には無い。
「怒らないの?私がこんな事したのに」
「ええ。私も似たようなもんです。人間はもともと罪深いですし、私もよく人を恨んでいましたから」
朝比奈さんは私の言葉には、全く納得言っていないようだった。
頭上では、カラスが一匹騒がしく鳴いていた。晴れていると思っていた空だったが、いつの間にか曇ってきた。雨が降るかも知れない。洗濯ものは庭で干しっぱなしにしたのを後悔した。
「ところで、その霊媒師に頼んであんたの願いは叶ったのか?」
向井は咳払いを一つして、朝比奈さんに質問を投げた。
「ないわ。一時的に良くなってもすぐに妾のところに帰ってしまう。だから、ずっと霊媒師の頼らないといけない状況になっていた」
やっぱりそうなのか。霊媒師に願いを叶えてもらう危険性も感じて胸が痛い。
そういえば隆さんは、以前霊媒師に悪霊を追い払って貰うのも危険だと言っていた。悪霊が悪霊を追い払うもので、最終的にはより強い悪霊に頼むしか無い状況になりキリが無い。その点、私達の神様に頼れば一回で悪霊は追い払える。なぜならそんな雑魚の悪霊なんかよりも遥かに強いお方だからだ。
「もう、霊媒師に頼るのはやめましょyね。誰も幸せにならないわ」
少し上から目線だとも思ったが、朝比奈さんに言う。朝比奈さんを責めたいわけではなく、むしろ心配だからそう言ってしまった。
「ええ」
意外と素直に聞き入れてくれてホッとした。このまま神様についても知って貰えたら一番良いのだが。
「あれ?」
向井は、川辺を指差して首を傾げた。
「あっちの方に人影がない?」
確かによく見てみると、川辺に人影がいるのが見えた。知った顔が見えた。この町の警官と八百屋のご主人だった。
二人は私達に走って近づいてきた。その顔は、何かが取り憑いたみたいに険しいものだった。
すぐに悪霊が関わっている事に気づき、すぐに逃げようとしたがもう遅かった。
頭や腕の強い痛みが走る。
咄嗟にお腹を庇ったが、意識がぼやけて、立っていられなくなった。朝比奈さんや向井の悲鳴も耳に届くが、身体は少しも動かなかった。
神様、どうかこの子だけは……!
お腹を抑えながら、そう祈る事しか出来なかった。




