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花嫁の願い編-2

 その夜、隆さんは塚田に聖書をみっちり教えて私達の寝室に帰ってきた。


 私はすでに布団を敷き、寝る準備を整えていた。


「塚田さん、どうだった?」

「ああ、あいつは意外と熱心の聖書読むな。こちらも教えがいがある」


 そう言いながら、隆さんは私の隣に座った。そして、ちょっと目を釣り上げて私を見る。何となくこれから怒られる事は予想していた。


「今日は何で花畑令嬢なんかに会いに行ったんだよ」


 とても不愉快そうに、頭をぐしゃぐしゃとかいていた。さっき風呂に入ったはずなので、頭がかゆいわけは無いが。


 私はなぜ花畑令嬢に会いに行ったのか事情を全て説明した。隠して居ても意味がないだろう。


「それで、ちょっと花畑さんとは、仲良くなってしまったの。友達になれるかもしれない。だから、もう彼女の事は許してあげてね」


 笑顔でそう言うと、隆さんは深くため息をついた。困っているというか、呆れていたが、隆さんも礼拝の後、みんなで祈ってもらって、花畑令嬢を許せて居ない罪を告白し、悔い改めたという。すると、霊媒師から受けていた霊的な攻撃が全部止まり、正気に戻ったという。


「やっぱり花畑さんの事が心に引っかかっていたのね」

「自分では気づかなかったなー。まさかあの女を許せていなかったとは」


 何はともあれ、隆さんの問題も解決したようでホッとした。思わず安堵もため息はこぼれる。


 いつものように静かな夜だったが、隆さんの側に座るとその息遣いなど衣擦れの音が響く。


「霊媒師は、やっぱり子供を優香していると思うけど、どうしましょうね」

「そうだな。まあ、今のところは我々が出来る事は無いだろう」

「そうなの?」

「というか、もうこの件は顔をつっこむな。意外と志乃は無鉄砲でお転婆だなぁ。もう子供が生まれるんだから、頼むから大人しくしよう…」

「そ、そうね……」


 久々に怒られてしまった。もっとも全て隆さんの言う通りなので、霊媒師のじ件はこれ以上何も出来ない事を悟る。それにもうすぐ子供も生まれる。いつまでもお気楽な学生気分では居られないようだった。


 その後、いつものように二人で聖書を読み、わからない所などを教えて貰った。


「ねえ、隆さん。申命記に書いてあるけれど、先祖の罪が子に三代四代まで呪われるって事あるの?」

「あるよ」

「え……」


 思わず言葉を失ってしまう。


「聖書に書いてある事は本当だからな」

「私の両親も神社やお寺が大好きだったわ。偶像崇拝的にご利益を拝むのが」


 だからといって、両親の願いが叶う事はなかった。むしろ、祟りが起きるかもしれない恐怖に縛られていたと思う。私もよく神社や寺に両親と一緒に行かされたが、心の底から癒される事はなかった。むしろ、そこに居る神様っぽい何かには愛は感じなかった。


「私の両親は、地獄に居るのかしら」


 その事を思うと、やっぱり心が痛くなってくる。しかも父は翻訳家だったので、キリスト教の知識はそこそこあったのに関わらず、結局救いにまではいかなかった。その事を思うと心が痛む。


「まあ、そればっかりは仕方ないな。信仰ないと天国にはいけないから。でも、私達が代わりに先祖の罪を謝る事は出来る。難しいとは思うが、地獄の苦しみが軽くなるかもしれない」

「本当?軽くなる?」

「ま、とりあえず一緒に悔い改めの祈りをしよう」


 私達はしばらく、父や母が偶像崇拝していた事の悔い改めの祈りをしていた。自分が犯した罪ではないが、 こうして人の為に祈っていると少しは心が軽くなっていた。


 父や母から自分は愛されていた事もわかった。もう、自分は決して悲劇の主人公ではない。むしろ罪だらけの醜い存在。そんな自分を赦して愛してくれたのは、神様だけだ。


 両親や隆さんから貰えた愛も大事で、代わりの無いものだと思う。ただ、神様から頂いた愛はそれとは全く次元が違う。


 人間同士の愛は、どうしても打算や計算も入る。ありのままの相手を無条件にに愛する事はやっぱりとても難しい事だった。隆さんの事は大好きだけれども、やっぱり何か条件があるから成立している感情ではある。


 もし、隆さんが悪魔崇拝者だったら絶対に惹かれる事はなかっただろう。神様は、例え悪魔を拝んでいるような人間も愛していた。悪魔崇拝者や占い師が神様を信じるようになった証を読みと、つくづくそう思う。


「イエス様。イエス様の血潮で私達の罪を赦してくれて感謝いたします。アーメン」


 祈り終えると、私の心はとても嫌されて軽くなっているのを感じていた。やはり罪を清められるのは、イエス様しかいないと感じる。地獄にいる両親の罪が軽くなったからどうかはわからないが、私の気持ちは軽くなって居たのがわかる。しばらく隆さんと二人で罪を赦して貰った余韻に浸っていた。


「隆さん、私は神様に何か出来る事があると思う?」


 恩返しではないが、少しでも神様の役に立ちたい事をしたいと思いはじめてきた。


 私の人生は全て神様のものだ。だったら少しでも神様の願い通りに生きたと思ってしまった。


 日本では神様を願い叶えて貰う存在で、ご利益宗教をやっている者も多いが、私達の神様は逆だった。一人一人がイエス様の身体の器官として、頭である神様の役にたつ事をしたかった。願いがもちろあるが、私達が神様と手となり足となって働く事の方が重要だった。


「そうだなぁ。まず聖書の御言葉は守ること。これは絶対だな」

「あとは?私が出来る事はある?」

「まあ、今は教会で子供達の面倒を見てるので、それで充分でがあるが……」


 隆さんは、神様の為の何ができるかしばらく一緒に考えてくれた。隆さんは、小説をとおして神様の事を書いて知ってもらいたいようだった。今、新しく作る雑誌の為に書いている新作は、聖書を引用している箇所も多いそうだ。私はもう隆さんの仕事には一切口出しをしないと決めて居るが、その新作が出来上がるのは楽しみだった。


「やっぱり賛美だよ。人間は神様を讃える為に作られたからな」

「そうね。讃美歌もっと練習しようかしら」

「それが良いだろう。うちの教会にはピアノのギターもあるし、ちょっと音楽もやってみたらどうだ?」

「そうね。やっぱり賛美ね。伝道は隆さんにお任せします」

「はは、そうだな。人にはそれぞれ役目があるからな」


 こうして私は、神様の為に讃美歌を練習する事に決まった。やっぱり神様の為に何か出来る事があると嬉しく思ってしまい、自然と笑顔は溢れた。


 霊媒師の問題は全く解決していないが、それよりもやるべき事が見つかってホッとした面もある。


 再び、隆さんと一緒に早くこの霊媒師の件が解決するように祈り、眠りに落ちた。


 今日は何の夢も見なかった。


 たぶん、もう悪霊からの攻撃を受けるような夢は見ないだろうと感じていた。それよりも神様の為に出来る事の希望を感じていた。


 天国まで響くような賛美を捧げたかった。

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