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許さない罪-5

 向井からこの話を聞くと、一旦教会の礼拝堂の方へ戻った。


 まだ隆さん達は礼拝堂に集まっていて、祈っているようだった。隆さんはまだ目が虚ろではあったが、牧師さんや大勢の信徒に囲まれて祈られていた。驚いた事に塚田もこの輪に加わり、向井も途中参加し始めた。


 この様子なら、しばらく任せても大丈夫だろう。霊的な問題は、このまま神様に任せておこう。


 問題はやっぱり花畑令嬢の事だった。


 一旦、家に戻ると置き手紙を書き、身支度を整えると駅に向かった。カバンの中には、向井から貰った花畑令嬢の連絡先も忘れずに入れた。


 我ながら無鉄砲な行動である事は自覚していたが、今は何かに突き動かされていた。


 最寄りの駅のそばにある書店も立ち寄り、少女小説雑誌を何冊か購入した。全て花畑令嬢の名前が表紙に載っていた。

 車内に乗り込むと、それらを丁寧に読んでみた。もちろん、花畑令嬢に関する所だけではあるが。


 向井が持ってきた切り抜きだけではなく、花畑令嬢は隆さんの作品を悪く言っているようだった。そう言った芸風ではあるらしいが、読んでいるち気分が悪くなってくた。


 花畑令嬢の作品も載っていたので読んでみたが、なかなか不思議な作風だった。鬼や悪魔に生贄になった少女がなぜか幸せになってしまうような不思議な恋愛小説が多かった。


 インキュバスに生贄として捧げられた事のある私は、思わず顔が渋くなってしまった。それに現実にこの町では子供が行方不明になっている。霊媒師が生贄目的で子供を誘拐している可能性が高い。こんな少女小説を読んでいたら、自ら生贄に志願するような若い女性が生まれても仕方ないのではないか。


 花畑令嬢と隆さんが気が合わない理由も深くわかってしまった。やっぱり夫婦で信仰が一致していなかったり、理解が無い場合は難しいと思ってしまった。


 ちなみにクリスチャンは、クリスチャン同士で結婚した方が良いとは言われている。ただ、結婚後片方だけがクリスチャンになる場合も多いそうなので、一概には言えないようだが、そう言った信徒の話を聞く限りは大変な面もあるという話だった。


 日本ではもともとクリスチャンはとても少ないし、私達の場合は幸運が重なっただけのように思えてしまった。


 花畑令嬢の作品を読んであまり良い気分になれなかったが、自分達がかなり恵まれた立場でいる事にも気づき、こ心は冷静になってきた。


 目的地の駅に降り、花畑令嬢が働いているという金持ちの邸宅に向かった。一人で歩き回るのは、不安が無い事はないが、今は花畑令嬢に会いたいという気持ちの方が強かった。


 邸宅は、明らかに高級そうな住宅街にあり気後れする。少し緊張しながら呼び鈴を押そうとした時だった。


「あら、まあ。あなた、雪下先生のお嫁さんじゃない?」


 女性に声をかけられた。なぜか私が隆さんの妻である事を知っていた。


「も、もしかして、花畑さんですか?」


 まさかとは思ったが、聞いてみた。


 質素な木綿の着物をきて、頭は荒布を巻いている。明らかに下働きの女性であるが、体格がよく妙に生命力が溢れている女性だった。眉毛が太くて男性っぽい顔立ちというのも、やたらと堂々として見えた。少女小説雑誌で毒舌書評を書いているというのに納得してしまう雰囲気だった。


 なぜ私について花畑令嬢が知っていたのか謎であるが、意外と好意的な笑顔を見せていた。


「そうです。雪下の妻です」

「あら、まあ。私、一度あなたに会いたかったのよ。私は花畑麗子。ご存じ? というか、私に会いに来たのよね?」


 てっきり私の敵意のようなものを見せて来るかと思ったが、花畑は私に古くから友人のような笑顔まで見せてきた。

 正直なところ、意味がわからないが、この雰囲気に負けるわけにはいかなかった。


「そうです。私、あなたと少し話したいんです」

「いいわよ、我が友よ」


 我が友?


 頭の中は、疑問符ばかり浮かんでくるが、この令嬢は相当変わり者である事がわかる。


「私、一度会った人は生涯の友達のように感じる人なの」

「へぇ……」


 明らかに私は花畑令嬢の力や雰囲気のようなものに飲み込まれていた。こんな人には会った事はない。教会にもそこそこ変わった信徒はいるが、こんな風に言う女性は見た事がない。強いて言えば塚田と少しだけ変わった所は似ているような気もした。作家はどこか変わっている人が多いのかも知れない。そう言ってしまうと隆さんも作家なので、変わり者という事にはなってしまうが。


「ねえ、立ち話もなんだから、近所の甘味処でも行かない?」

「え?いいんですか?」

「私に用があるんでしょう。雪下先生の奥さんは」

「ところで、仕事は大丈夫ですか?」


 冷静に考えれば、無理矢理お仕掛けて来た自分は非常識だった。その点は、完全に私が悪いので顔が赤くなってしまう。


「いいわよ。今日は日曜日で暇なの。でも、甘味処ではあなたが餡蜜奢って?いい?」


 勝手にお仕掛けて来たのは、自分の方だ。私はこの条件を飲むしか無いようだ。


「わかりました」

「やった!餡蜜!」


 花畑令嬢が、子供のように無邪気な笑顔を見せてきた。

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