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先祖編-2

 次の日の土曜日。


 隆さんは仕事で半ドンだったが、いつもより早く帰ってきてくれた。


 塚田はこの町の商店街で酒屋の仕事が決まったようで、朝早くから出かけていた。


 家事を手伝ってくれる塚田が居ないし、昨夜はずっと隆さんとくっついて居たので少々寝不足ではあったが、頭を切り替えて教会の子供の世話や家の家事を頑張った。


 昨日、祈りのおかげか悪霊に攻撃される事も無くなった。罪も両親を許せない気持ちだった事に気づき、スッキリとした。隆さんによると、許せていない気持ちや感情に悪霊の足場が出来て攻撃される事も多いときいた。やっぱり罪については日々よく点検し、祈っていかなければならないと感じた。


 隆さんが半ドンで家に帰ってくると、軽く昼ごはんを食べて一緒に両親が眠る墓地に向かう。都内の本郷近くにある墓地だった。


 ここは、私が両親が死ぬまで過ごした家に近いが、今までこの辺りにやって来る事はなかった。


 東京都内ではあるが、近くの神社や森があり静かな場所だった。


 私と隆さんは、二人でゆっくりと歩きながら墓地に入る。

 私が妊娠中という事もあり、隆さんはこれまで以上に気を遣って一緒に歩いてくれた。人混みがある駅前では庇うように前を歩いてくれたし、そこから墓地までぼ道のりも歩調をあわせてくれて感謝しかない。


 秋といえども日差しはあり、日傘をさした。傘も宗さんが持ってくれて、本当にありがたかった。


 墓地は、そのほとんどが仏教式の四角いものばかりだ。キリスト教式の墓は、一つも見当たらないが仕方ないだろう。私達は牧師さんの知り合いが管理しているキリスト教徒専用の墓地をすでに買っているが、日本ではまだまだ少数派である自覚はあった。


 隆さんは日傘を閉じ、洗いおけに水を汲む。ほとんど両親の墓地には行っていないので、少し汚れていたので掃除する。


 草をむしり、墓跡の汚れを落とした。私達はクリスチャンなので、先祖の祟りがある事などは少しも信じていないが、こうしてずっと放ったらかしにそ、結婚の報告すらしなかった事はよくなかった。聖書には、父と母を敬えとあったのに出来て居なかったと実感した。


 両親が眠る墓地を綺麗にすると、隆さんと二人で報告した。手を合わせる事はしない。先祖や死人を拝む事は偶像崇拝にあたる。


「お父様、お母様。長らくほったらかしにしてごめんなさい。二人が突然亡くなって、置いてかれたような気がしてずっと許せない気持ちでいました。でも、今は私の信じている神様のお陰で、愛されて育った事に感謝しています」


 私は、少し泣きそうになりながらも何とか言葉を紡いだ。おそらく両親がいる場所は天国ではない。二人とも信仰心はなかったから。その事を考えると少し気持ちは暗くなるが、もっと早くに神様に出逢いたかったと思ってしまった。


「志乃のお父様。お母様。初めまして。志乃の夫です」


 そう言って隆さんは、頭を下げた。


「お二人に会う事は出来ず、また福音も伝えられず、後悔しかありません。ただ、私はこれからも志乃を守り、愛します」


 その言葉は、自分に向けられたものではないのに胸に込み上げる。再び泣きそうになってしまった。


「お父様、今私のお腹には赤ちゃんがいるの。ずっと放って置いてごめんなさい」


 私は再び、誤り墓地の近くの花屋で買った花を供えた。


「志乃もこの子も大切にします」


 隆さんの言葉にまた泣けてしまったが、墓の再び語りかける。


「私の主人は、本当に素敵な人でしょう」

「いや、志乃の方がよくできた妻だ」


 恥ずかしさと切なさで、私の顔は真っ赤になってしまった。


「あ、あなた。そろそろ帰るましょう」

「そうだな。行くか……」


 こうして私は、花が飾られた両親の墓地を後にした。

 墓地の門をすぐ出た時の事だった。着流しの和装の男性に声をかけられた。


「土屋先生!」


 隆さんが喜びの声を上げる。


 すぐには思い出せなかったが、その名前には聞き覚えがあった。私の父の同業者の翻訳家の土屋先生だった。

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