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霊媒師編-5

 私は商店街で買い物を終えると、家に向かって川沿いの道を歩いていた。


 少し天気も悪くなって来たようだった。見上げた空は、薄い雲が広がり、灰色っぽくなってきた。


 向井は霊媒師を調べると火因村の方へ行ってしまった。少し心配ではあるが、自信たっぷりに行動している向井の様子を見ていると、任せてしまった方が良いだろう。


 私は買い物がてら、商店街の人々の噂を探ってみたが大きな情報は得られなかった。ここは本職の向井に預けた方が良いだろうと思う。じっさ、夏実さんの件も向井が証拠を掴んでいた。


 川辺は、もう警察も巡回していなかった。子供も遊んでいないし、静かなものだった。


 大きな風が吹き、着物の袖に入れて置いたハンカチーフを落としてしまった。


 隆さんが東京のデパート買ってくれた椿の柄のハンカーフだ。母の形見のハンカチーフは、春人くんにあげてしまった為、隆さんが代わりに買ってくれたものだった。


 このハンカチーフは、隆さんの気持ちの具現化したもののようで、肌身離さず持ち歩いていた。結婚指輪はいつもしているが、やっぱりそう言ったものでも身につけていると安心するものだった。


 急いで拾おうとしてしゃがむが、目の前に人が現れてハンカチーフを取ってしまった。


「これ、あなたの?」

「か、返してください」


 その人は、女性だった。真っ黒なマントに身を包み、足元は西洋のブーツ姿だった。


 40歳ぐらいの女性だったが、きみの悪い雰囲気が漂っている。マスクはしていなかったが、直感的にこの女が霊媒師の榊原珠子だと思ってしまった。逃げたかったが、ハンカチーフを人質に取られたままだ。


「ふぅん。あなた、キリスト教の人ね?」

「何で、わかったんですか……」

「私は霊媒師。霊の状態など助け見えるのよね」


 やっぱりこの女は、霊媒師の榊原珠子のようだ。


 榊原は、私を上から下までじろじろと見つめる。


 怖くてたまらなかったが、逃げることはできなかった。むしろ、良い機会とも思えてきた。ここで誘拐について吐かせる事は出来ないだろうか。


 それにクリスチャンには聖霊が宿っているはずだ。いざとなれば向こうが泣いて逃げるぐらい戦う事ができるはず。牧師さんは、クリスチャンが祈っている所には悪霊は入って来れないと言っていた。


 榊原と向き合いながらも、心の中では祈りの言葉呟いていた。


 案の定、榊原は顔を顰めはじめた。


「本当、その祈りやめてくれない?」

「イエスさ……」

「ああ、もうその名前を呼ぶんじゃないの!」


 やっぱり神様の御名前は、悪霊が憑いた霊媒師のは、攻撃を加えられるようだった。


 榊原は、ぜいぜいと息を荒くし始めた。牧師さんが言う通りのようだった。祈りながら、神様の守りを感じていた。


 榊原はついにハンカチーフを手放したので、私はすぐに取り返した。とりあえず大事な人質は、取り戻せたようでホッとする。


 思えば神様も大事な人間の子供をあくまでの人質の取られた状態なのかもしれない。そう思うと昔の自分は、神様の事も何も知らずに罪深い事をしていたと思う。


「あー、でもあんたの霊が見えたわ」


 息を切らしながらも榊原が、反撃する様に私の過去を次々と言い当て始めた。


 両親の事やインキュバスに生贄に捧げられた事など、過去の話は詳細に言い当てていた。


「へぇ。インキュバスに憑かれていたのね。でも、あんなのは低級な淫魔ですしねぇ」


 なぜか榊原は、ここで大笑いをし始めた。


「私のファミリアスピリッツの方がよっぽど優秀よ。なんせ蛇のファミリアですからねぇ」


 本当に蛇のような笑顔を見せた榊原は、私の近づきとおでこの辺りを触り始めた。


「へぇ。あんたはこんな罪があるのねぇ」

「罪?」

「あんたでも気づいていない罪よ」

「え?」


 榊原は、さらに近づく。


「死ね。呪われろ!」


 呪いの言葉を吐くと、榊原は勝ち誇ったような笑いを見せて、早歩きで帰って行った。


 私は恐怖で腰が抜けてしまった。その場に崩れ落ちるように座り込む。


 胸に嫌な気持ちが溜まっていく。


 自分はまだ気づいていない罪があるの?


 すぐ祈ってみたが、答えは出なかった。


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