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霊媒師編-2

 祈りを捧げた後は、何も考えずに家事に取り組んだ。


 霊媒師や生贄のことを考えると心が暗くなりそうだったので、いつものように牧師館に行って子供達の世話をしたり、礼拝堂の床を磨いた。今日も牧師さんは忙しいようで何処かに出掛けていた。誰に頼まれたわけでは無いが、いつも礼拝を捧げる場所が綺麗だとやっぱり気持ちが良い。


聖書にはいつも喜んでいなさいと書いている。霊媒師や生贄について考えすぎる事は、あまり良くない事かも知れない。


 掃除を終え、自分の家に戻るとちょうど塚田が帰ってきた。


 塚田は顔を赤くしてかなり怒っていた。とりあえず、落ち着かせる為に茶の間に迎えて、お茶を出した。


 効果があるかはわからないが、ハンスさんに貰ったハーブティーという西洋のお茶を出してみた。風邪をひいた時などの飲みと心が落ち着く。急須の淹れて、日本のお茶と似たように淹れるが、ふわりと清々しい匂いが茶の間に広がる。


「これ、何ていうお茶?」


 この匂いに毒気が抜かれたのか、塚田はさっきよりも落ち着きながら、質問してきた。


「カモミールティーですって。お口に合えばいいんですけど」

「わぁ。何か林檎みたいな香りがするね。悪くないと思う」

「なら良かったわ」


 ハーブティーの比較的合いそうななビスケットも数枚出して皿のもった。ビスケットは向井が仕事で神奈川に行った時のお土産だった。


 向井とは夏実さんの一件いらい、たまに教会や我が家のやってくるわけだが、二人きりで会う事は決してなかった。


「うん。ビスケットもうまいよ」

「よかったわ。お口にあって。ところで警察は話を聞いてくれた?」


 塚田の気が緩んだ所を見計らって、警察の件がどうだったか聞いてみる事にした。


「それが、全く話を聞いてくれなかったよ。それどころか耶蘇教の関係者だからって、色々酷い事も言ってきた」

「そっか。仕方がないわね」

「あれ?奥さんは怒らないの?まあ、雪下先生もあんまり怒ってなかったけど」

「よくあるのよね。私はよく知らないけど、教会に嫌がらせもあった時もあったみたい。この国は天皇もいらっしゃるわけだし、私達の神様に否定的な考え持つ人も多いの」


 話していて少し悲しくなってきたが、聖書では迫害されたら喜ぼうとある。イエス様の弟子達もほとんど殉教している。聖書で書かれている事は真理だが、本当の事過ぎて耳に痛い人が多いのだ。迫害されるのも当然の結果と言えよう。


「そっか。なかなか平和で楽って事はないんだな」


 塚田は湯呑みのハーブティーをすする。本当は、洋風のティーカップに淹れてもよかったが、湯呑みに淹れていた。そういえば隆さんとであった頃に湯呑みにハーブティーを淹れてくれた時があった。風邪をひいていた時で、飲んでいるととても落ちついた。そんな事を考えていると、私も少し気分が落ち着いてくる。警察の反応は予想通りというにもあるかも知れないが。


「他に警察は何か話していた?」

「うーん。でも、捜査は全く進展していないようだよ。行方不明の子供も一人も見つかっていないらしい」

「そっか」

「子供は心配だな。どうすればいいのだろう」


 赤の他人の子供を心配する塚田の心は、さほど汚れていないとも感じた。昨日はあんな事があったが、こうして私達の話しを受け入れてくれるだけの器はあるようだ。やっぱり作家だけあって、人の気持ちにも敏感な所もあるのかも知れない。


「こういう時こそ、神様に祈りましょう」

「僕、祈り方わからないんだ」

「じゃあ、一緒に祈ってみる?」


 私は塚田の祈り方を教えた。


 まず手を組み、出来るだけ姿勢をかがめえる。膝をついたままの体勢だ。中には土下座する場合もあるが、それは悔い改めの祈りの時が良いだろう。


「まず神様に呼びかけましょう。天のお父様、イエス様って言うの。その後は自由にいのって、最後にイエス様の御名でお祈りしますっていうのね」

「へぇー。それだけ?他の決まりはないの?」

「あ、最後のアーメンって言ってね」

「いつも疑問に思っていたんだけど、耶蘇教の人が言ってるアーメンって何?」

「これは、ヘブライ語で『そうなりなすように』っていう意味。お祈りの最後に言ったり、同じクリスチャンに同意した時に言う言葉って感じ」

「へぇ。面白いね」


 アーメンと聞くと、ノンクリスチャンの人は気持ち悪がる人も多いのだが、塚田は意外とあっさりと受け入れていた。


「祈り方って本当にそれだけ?1日祈る回数とか決まっていないの?」


 私は首をふる。


 祈りは神様との会話だ。ちょうど妻が夫に話しかけるようなものでもある。決まりに縛られず、好きな時間にいつでも祈って良い。


「へぇ。耶蘇教の神様って懐でかいな」

「でも、あんまり長い言葉でくどくど祈ったり、人前で見せつけるように祈ったりはしないでね。神様は心を全部見てるから」

「そっか。何でもお見通しなんだ。参ったね、神社にいる神様っぽい何かと大違いだなぁ」

「そうね。神社は決まりが多いしお金とるけど、私達はいつで祈れる。もちろん、無料でね」


 そう言うと、しばらく二人で祈っていた。


 子供が無事に見つかるように。霊媒師が関係があるのなら、一刻早く止めるように祈った。


 不思議と一人で祈るより二人で祈った方が、心は落ち着いてきた。子供については、心配で仕方がないが、それでも徐々に落ち着きをとる戻していた。塚田も祈り終えた後、とてもすっきりとした笑顔を見せていた。昨日、死にたいなどと言っていた事は嘘のようだった。

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