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霊媒師編-1

 翌日。


 私はいつも通り早く起き、朝食作りや子供達の世話に開けくれた。


 驚いた事に塚田も早く起きてきて、朝食を並べるのを手伝ってくれた。


 今日は、野菜の味噌汁、塩むすび、ゆで卵と糠漬け、食後に葡萄というメニューだった。昨日は鯛ご飯で量が多かったので、今朝は少し控えめにした。


 そうこうしている内に隆さんも起きてきて、三人で朝食を取り始めた。食前の祈りを捧げるが、今日は塚田も自然に参加していた。


 塚田はしきりに聖書の事を質問し、隆さんが答えていた。


「じゃあ、サタンっていう悪魔は元々天使長だったのか?」


 特に悪魔については塚田食いついていた。確かに闘うべき巨悪がわかると、より聖書が伝えたい事がわかるかもしれない。私も始めてこの話を聞いた時は目から鱗だった。ちなみに目から鱗という言葉は聖書が由来で、他にも豚に真珠というのもそうだ。


「なんで天使長から堕落しちゃったんだい?」

「サタンは元々ルシファーという天使長だったんだが、美しく有能だったそうだ。それで自惚れてしまったんだな。神様に反抗し、自分が神になろうとしたんだよ」

「おぉ、そんな経緯だったのか。じゃあ、そういえばあの霊媒師は、自分のことは神だって言ってたんだけど、なんか関係ある?」


 塚田のの言葉の思わず私達夫婦は顔を見合わせる。典型的に悪霊が憑いた人間の人間の言葉だ。悪霊が憑くと、思考だけでなく発する言葉も悪魔と似たようなものになる。


「もちろんあるな。霊媒といっても自分が憑いている悪霊を使役して、過去を言い当てたりしているのさ」

「怖いわねぇ」


 隆さんの説明に思わず暗くなってしまう。塚田は意外と平然として話を聞いていたが。


 今日も綺麗な秋晴れで茶の間の窓から見える空は、とても綺麗だったが、悪霊の話となるとあまり喜べない。


「そう言った霊は英語ではファミリアスピリッツというんだよ」

「へぇ、雪下先生はよくしってるな。じゃあ、どうやって霊媒師は悪霊と契約みたいな状態になっているの?」

「やっぱり生贄? 隆さん」


 私も気になるところなので、ついつい口を挟んでしまう。沙里子ちゃんはもちろん、町の子供は依然として見つかっていない。教会の子供達を預かる身としては、早く解決して欲しい問題でもあった。


「その可能性は大いにある。そうやって生贄を捧げた人間の悪霊はそこそこ願いを聞くという性質があるからな。意外と霊というのは、契約関係で、結婚の関係とも言えるんだ。私達は、いわばイエス様と結婚しているようなものだがな」


 隆さんの説明を聞きながら、「キリストの花嫁」という言葉の意味がよりわかるようなきがした。結婚は、身も心も経済も未来も相手の捧げる行為だ。神様を信じる事は、そういう事だと思う。同時に私達は神様から聖霊や賜物をいただける。


「だったら悪霊と契約する事も悪くない気がするんだけど?」


 塚田はちょっと笑いながら言う。


「あのな、そんな事になったらまた昨日みたいに変な状態になるぞ。悪霊は人間の事は愛していないからな。願いを叶えるかもしれない。ただ失うものは大きいぞ。それにそんな行為は神様から見て罪だ。死んだらどうなるか、よく考えるべきだ」


 隆さんの言葉自体は厳しいが、塚田も何か感じとったらしい。もう霊媒も悪霊とも二度と関わらないと宣言するように言った。


 こうして塚田に悪霊憑いた件は解決しそうだった。質素ながらも食がすすみ、食卓の上の皿や茶碗はほとんど空になる。


 同時に葡萄を洗って持っていった。本来ならこういった果物は高くてなかなか買えないが、八百屋に少し負けて貰った。妊娠中という理由もあるだろうが、こうした降って沸いた偶然は単純に嬉しく思う。


「葡萄か。うまそうだな」


 久々の果物の隆さんも美味しそうに食べていた。


「子供達を誘拐しているのは、あの榊原珠子っていう霊媒師の可能性は高いと思う?」


 難しい問題だとは、思うが二人に意見を聞いてみる事にした。


「うん。私はその可能性が高いとは思う」

「僕は、わかんないな。変質者が犯人じゃない?あとは身代金目的とか」


 塚田の意見は一理あるが、隆さんはすぐ否定した。


「変質者か身代金目的だったら、すぐ見つかっているよ。私はやっぱり生贄儀式目的の誘拐だと思う。もうすぐハローウィンだしな」

「子供達は生きているかしら」


 甘くて瑞々しい葡萄を食べながらも、その言葉を聞くとどっと気分が重くなっていくようだ。もし子供達に何かったら、大人として責任も感じてしまう。


 私はあの飴玉の件を隆さんに話していなかった事を思い出し、説明した。隆さんの顔はどんどん暗くなっていく。


「片目にピラミッドか。やっぱり生贄儀式目的の誘拐だ。間違い無いと思う」

「警察は?」


 塚田はあまり話がわかっていないようで呑気に聞く。聖書には当時の悪魔崇拝者達が、子供を生贄にし焼き殺す描写もある。そう思うと、今、悪魔と契約していそうな霊媒師が生贄を探していたとしても、何の不思議は無い。


「まあ、こんな事言っても警察には取り合ってくれないだろう」

「でも、一応言ってみたら?」

 私は望みが薄いが、警察に言っても悪くない気がした。

「そうだな。今日、学校行く前に警察行くか」

 隆さんは難しい顔をしながらも深く頷いた。

「だったら僕もいく!二人で行った方がいいよ、絶対」

「まあ、昨日の事もあるしな。警察が信じてくれるかどうかは未知数であるが。じゃあ、塚田。一応、一緒に警察行くか」


 こうして隆さんは、警察に事情を説明する為のいつもより早く塚田と一緒の出かけてしまった。


 警察がこの話を聞いてくれるかどうかわからない。


 そもそもキリスト教について否定的な警察も多いだろう。それでも、あの飴玉やマスク女の事は気になるし、一刻も早く子供達の無事を確認したかった。


 二人が出掛けて行ってしまうと、しばらく祈っていた。私は祈る事しかできない。


 それでも祈りが一番の武器である事は知っていた。


 もし、生贄儀式目的の誘拐だとしたら、敵が一番怖がるのは私達の神様だ。

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