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偶像崇拝編-4

 私は、とりあえずお茶を出して茶の間に春美さんや塚田を座らせた。塚田は膝を抱えて座り、ずっと死にたい、死なせてくれとぶつぶつと呟いていた。


「これは、どういう事だ?春美。説明してもらおうじゃ無いか」


 隆さんは、腕を組み、目を吊り上げて言い放った。その姿は、本当に父親みたいだったが、春美さんは誤魔化すようにふざけていた。


「これ、鯛ご飯? めでたいって事ね。なんちゃって」

「こら、ちゃんと説明しろ」

「そうよ。隆さんの言う通りよ。どういう事かちゃんと説明してくれる?」


 夫婦揃って言われて、ふざけていた春美さんも怯んでいた。一回咳払いをした後、渋々事情を説明してくれた。


 火因村近くにある榊原珠子という霊媒師のところに行った事を話してくれた。行くと人だかりで、頭痛や腹痛を訴える人を治す奇跡を見せていたらしい。


 思わず夫婦揃って顔を顰めてしまうが、春美さんは事情を続けて話す。順番が回ってきて、塚田は榊原珠子に霊を鑑定して貰う。


 しかし、「あなたはすぐに死ぬ」「変な霊が憑いている」と脅された後、塚田は本当に何かの取り憑かれた様にああなってしまったらしい。ちなみに春美さんは5銭から10銭の護符をたらふく買わされたらしい。


「馬鹿だなぁ……」


 隆さんは頭を抱えながら、つぶやいていた。


「ちょっと、隆兄ちゃん。そんな事言う事ないでしょ。私だって変な霊がつくかも知れないって脅されたんだから」


 隆さんに呆れられても春美さんは、あまり堪えて居ないようだった。その代わり、塚田はずっとぶつぶつ暗い事を呟いていた。


 立ち上げると台所に行って、包丁を探そうとしていた。うちの包丁は切れ味が良くないが、このままでは危険だ。とりあえず、包丁など危険なものは金庫の閉まって鍵をかけ、塚田を落ち着かせる事にした。


「まず、春美。護符を全部だせ。後神社で買ったお守り、石、小物なんかも有れば全部出せ」

「えー、隆兄ちゃん、ひどくない?そんなの無理よぉー」


 春美さんは口を尖らせていたが、隆さんが睨みと渋々、護符やお守り、石でできた首飾りなどを全部出して、ちゃぶ台の上に置いた。確かにちょっと怖い雰囲気のある隆さんに睨まれると素直に出すしか無いようだったが。


「これ全部捨てるけど、いいか?」

「ちょっと! 高かったんだから。いくら隆兄ちゃんの言う事だって……」


 春美さんは涙目だった。でも、隆さんは無視して全部ゴミ袋に入れてしまった。もちろん、さっきと同じように断ち切りの祈りもして居たので、私も同じように祈った。


 こんな祈りであったが、そばで聞いていた塚田は黙り始めた。不思議と「死にたい」は言わなくなった。ただ、相変わらず暗そうの膝を抱えてはいたが。


 この変化に春美さんは、大きな目をさらに大きく見開いていた。なぜそうなったのかは、クリスチャンである私にはわかるが、春美さんには何の事だかさっぱりわからないだろう。


「どう言う事? もしかして、私のお守りとかに変な霊が憑いていたりしたの?」

「その可能性は大いにあるな。こう言ったお守りや石は、英語ではタリズマンと言われていて、人が呪いをかけながら作っているものもあるんだ。藁人形と変わらない」


 春美さんも私も隆さんの説明に絶句してしまう。お守りと言ったものにそんな呪いが込められているとは、始めて知った。


「うちには無いが、仏壇やマリア像なんかの宗教的な偶像や祭壇もとても危険なんだよ」

「なんで危険なの? これも偶像崇拝になるから?」


 隆さんは深く頷く。いくら神社の坊主や住職などが綺麗な心で祈ったとしても、そこは所詮血も涙も無い偶像。拝んだ方が呪いを受ける可能性は大いにあると言う。聖書でも偶像崇拝の結果、心が石になると言った箇所もあった事を思い出す。繰り返し何度も偶像崇拝はするなとも書かれている。性格に数えたわけでは無いが、姦淫の罪や殺人の罪より偶像崇拝に箇所が多いと感じる。


「つまり、それってあんた達の神様が呪いかけてる可能性あるって事?」


 春美さんは、ガタガタ震えながら聞く。


「うん。それぐらい神様が人間の事を愛しているからね。偶像崇拝なんかしてると、神様はねたむよ。聖書にもねたみの神様ともある。偶像崇拝すると3代4代まで呪われるとあるね。まあ、例えでそう書いてあるだけだけど、それぐらい神様は我々を愛している」


 この話で春美さんは、私達の神様を畏れ始めた。細かい事はよくわかっていないと思われるが、思い当たる節はあるようだった。怖がりながらも我が家から帰って行った。


「問題は、塚田だな」

「どうしましょうか。悪霊追い出ししますか?」

「まあ、また帰ってくる可能性もあるが、このまま放っておくわけには、いかないな……」


 隆さんは深くため息をついて、しゃがんで暗い顔をしている塚田に向き合った。

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