偶像崇拝編-2
夕方になっても春美さんも塚田も帰ってこなかった。
その間に私は牧師館の方に行き、この事を相談しに行った。
礼拝堂の隣にある面談室に二人で向き合って座る。
「春美さんが、霊媒のところに行ってしまったんです……」
私は渋い顔をしながら、事情を説明した。
「そうですか。春美ちゃんは、参りましたねぇ。あの子には、何度も伝道しているんですが、コックリさんも大好きでしたしね……」
牧師さんも深いため息をついていた。礼拝堂では、信徒の女性達が讃美歌の練習をしていて、綺麗な歌声が響いていた。12月のクリスマスで、信徒さんの練習している讃美歌が披露される。
「コックリさんも悪霊を呼びのね……」
「ええ。本当にあれも危険ですから絶対に手を出さないように」
私は深く頷く。コックリさんは、ミッションスクールでも手を出した生徒がいて、問題になった事を覚えている。
「霊媒師には、悪霊がついているの?」
「ええ。榊原珠子っていう霊媒師はとんでも無いですよ。竹村さんもその霊媒師に惑わされて大金をむしり取られていたんです」
「竹村さんは大丈夫だった?」
信徒の佐竹さんは、霊媒師に惑わされていたのを思い出す。大金を取られていたなんて、霊的な問題はもちろん金銭的にも大問題だ。
「ええ。何度か面談して、どうにか神様に立ち返ってくれました」
「あぁ、それなら良かったわ…」
思わずホッとして胸を撫で下ろす。
「実際、霊媒のような事ってどうやってやっているのかしら。悪霊なんてそうそう呼べるものには、見えませんが」
ふと、頭に思い付いた疑問を口に出していた。
「罪を犯せば悪霊と馴染みます」
「でも、お金や成功を持ってくるような上位の悪霊まで呼べるかしら」
隆さんには、悪霊はピラミッド組織みたいである事を説明して貰った事がある。それなりの力を得る為には、上位の悪霊を呼ぶ必要があるだろう。私に憑いていたあの龍神のフリをしていたインキュバスは、それほど上の方の悪霊ではないだろうと隆さんは見解を述べていた。
「もしかして霊媒は生贄を捧げて力をおえているのかしら……」
その可能性は大いにある気がした。聖書でも子供を殺したり、神殿で乱行をして悪魔を拝む人間が出てくるし、隆さんも生贄について説明してた。
「その可能性は大いにありますね。悪魔を拝む連中は、生贄を捧げてその利益を貰っていますからね」
牧師さんも渋い顔をして頷く。
「その榊原っていう霊媒師が、この町の子供を誘拐して悪魔から力を得ようとしているのかしら」
口に出しながら、顔は青ざめていたと思う。霊媒師の噂が現れた時期と子供が居なくなった時期もだいたい一致している。
「その可能性は大いにありますね」
「そんな、どうしたら……」
「とにかく子供達の事はよく見ておきましょう。また知らない人に注意するように言っておきます」
「そう言えば、子供達がマスクの怪しい女性に会ったみたいなの。こんな飴も貰ったみたい」
私は着物の袖から文子ちゃんから預かった飴玉を見せた。
「本当ですか? この飴は……」
牧師さんは、飴の包みを剥がしながら、うめき声を上げた。
「何ですか、これは……」
飴の包みを開くと、奇妙な絵が書いてあった。ピラミッドのような絵だった。何故かピラミッドの頂点に片目の絵が描いていて、気持ち悪かった。
「これは、プロビデンスの目ですね……」
「何ですか、これは……」
「これは、悪魔が好むシンボルですね。こう言ったシンボルを置くたり、描く事でも悪霊を呼ぶ事ありますね」
「そんな」
「気持ち悪いですね」
牧師さんは、苦笑しながら飴の包みをビリビリに破いた。同時にこの場の空気が、変わったように感じた。このような絵というかシンボルで悪霊を呼び寄せているのは、あり得そうな話だと思った。
「祈りましょう」
「ええ」
しばらく私達は、この事について祈っていた。
天のお父様
イエス様
全ての魔術、偶像崇拝、占い、死者との交霊、コックリさん、霊媒師に相談した時に入った霊よ、イエスの御名で出てくよう命じます。
全ての悪霊たちに、イエスの御名で神の火を放ちます。
どうか、この町と子供達を霊媒や悪霊からお守り下さい。
イエス様の御名で祈ります。
アーメン。
しばらく祈り、悪魔のシンボルが持ってきたと思われる重い空気などは、完全に消えた。
不安に思っていた事も癒され、だんだんと平静になってきた。
「まあ、これからハローウィンですし、志乃さんも気をつけて下さいね」
「はい、気をつけます」
最後に牧師さんにそう言い、家に帰った。
相変わらず春美さんも塚田も帰ってこなかったが、隆さんが早く帰ってきてくれた。
隆さんが早く帰ってきてくれた事にホッとし、ちょっと涙目になってしまった。この私の異変に隆さんはいち早く気づく。
「ちょ、志乃。なんかあったか」
「実は……」
私は春美さんと塚田の事、霊媒師やマスク女の事の事を全部隆さんに説明した。




