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プロローグ

 【神を賛美するために、人間は創造された。(旧約聖書・詩編102:19)】



 子供の頃、父と母とよく神社や寺に行っていた。


 家の近くにある神社は森に囲まれて、薄暗くてちょっと怖かったけれど、「願いが叶う」と両親に言われれば行かないわけにはいかなかった。


 赤い鳥居をくぐって、手水舎で手を洗い、口をゆすぐ。


「お父様、なぜこんな事をするの?」


 幼い私は単純に疑問だった。


「心と身体を綺麗にするっていう意味があるのさ」

「そうよ、志乃。ちゃんと洗わないと神様が怒っちゃうわ」


 両親に言われてそんなものかと納得する。


「神様って怒るの?」

「怒るさ。だから、天気が悪くて農作物が不作になったりするのさ」


 そう言って父は、身をプルプルと振るわせていた。


 本堂の前に行き、仁礼ニ拍手一礼する。なぜこんな事をするのか、さっぱりわからないが、決まりを守らないと神様の怒られると父に言われた。


 父と母は五銭もお賽銭箱に入れていた。これだけ有れば色々駄菓子が買えるのにと思ったが、神社の不気味な雰囲気に飲まれて、そんな事は言えない。


 参拝が終わると、絵馬を書いた。


 当時、両親は2人目を望んでいるようで、熱心に『赤ちゃんが欲しいです』と願い事を書いていた。その姿はちょっと異様で、幼い私はもう何も言えなくなってしまった。


「志乃はどんな願いを書くの?」


 母から絵馬を渡される。


 しかし、全く願い事など思い浮かばなかった。強いて言えば家で飼っている鶏のジロウが、もう少し朝静かにして欲しいという事ぐらいだった。


 他に願いも無いので、「ジロウが大人しくなりますように 佐竹志乃」とだけ書いた。


 おみくじを引き、枝に引っ掛ける。おみくじは、大凶だった。思わず青ざめて、父が賽銭箱にさらに5銭入れてきた。


「これで、大丈夫さ。志乃」


 父は自信満々に言っていたが、おみくじの結果がこうだとあまり良い気分はしなかった。


 神社から帰るとしばらく悪夢ばかり見て、よく眠れなかった。


 幼い私は、神社にいる神のようなものには、人の心を恐怖で縛る恐ろしい存在にしか見えなかった。


 ジロウは相変わらずうるさい。


 私に妹も弟もできなかった。


 何一つ願いは叶っていないのに、それでも両親は神社に行き続けた。


 それだけでなく、日付けや方角を気にして出掛けるようになった。


 良い方角や日時を選んでいたはずなのに、両親が旅行先で事故にあって亡くなってしまった。


 何で神社に行っているのに願いが叶わないの?


 幼い私は、不思議で仕方なかった。


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