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街並みはどこもそれ程変わらない。けれどここには、人が溢れている。多くの建物があるけれど、それでも足りない程の人がいる。
この街の人間は、なんだかとても早足だ。そしてみんなが無表情に見える。僕は勝手に想像していた街とは少し違う。人は多いのに、活気がない。
自然が少ないのも驚きだ。人間が暮らしている街なのに、権力者の街よりも緑が少ない。戦場でさえ緑の多い地域はある。僕の暮らしていた街も、ここよりは自然を感じられた。
街路を彩る木々はある。けれど何故か、そこには自然を感じない。まるで殺風景なのは何故だ?
僕の戸惑いを他所に、彼女はグイグイ進んで行く。目的地が分かったのか? そんな筈はないけれど、迷いなく進んでいるように見える。僕達には着いていくしか術がない。
彼の恋人はあまり周りを気にしていないようだった。それもそうかと思った。彼の恋人は、記憶を消されていたとはいえ元はこの街の住人なんだと思い出した。
あれ? なにかがおかしいなと感じた。地下空間を歩いていたとき、彼の恋人はこの街の地上には来たことがないと言っていた。どうしてそのときに誰も矛盾を感じなかったのか不思議だ。
恋人として生きるようになってからはという意味なんだと勝手な想像をする。記憶を取り戻してからは一度も来ていないってことだろう。彼も彼女のそう感じたからなにも言わないだけなんだ。
それにしても彼はまだ落ち込んでいるようだ。さっきからずっと俯き加減に歩いている。
彼女は多くの背の高いビルが並ぶ方へと足を進ませているようだ。
そっちに行ってもグループには会えないんじゃないかな?
僕は直感でそう言った。
そうかしら?
彼女には確信があるようだけれど、その理由が分からない。