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お喋りになった彼女は、一般市民の街の実態を教えてくれた。
この上の街にはね、お金持ちがいっぱいなのよ。みんなまともな仕事なんてしていないのに、労働者から搾り取ったお金で裕福に暮らしているんだから。さっきの男達もそうよ。役所で働いている。あぁやってあそこに立っているだけでお金を貰っているのよ。しかも働くのは週に三日だけ。それ以外の日になにをしているのかなんて知らないけれど、きっと意味もなく遊んでいるだけなのよ。この上はそういう人達ばかりだから。
彼女は僕の隣を歩いていて、その後ろを彼と彼の恋人がついて来る。二人はなにも言葉を発しないけれど、彼女の言葉を楽しんでいるのは感じられた。本当なら質問したいこともあるだろうけれど、そこはしっかり我慢していた。
彼女の話は楽しい。ほんの少しだけれど、お店にいる気分になる。それは彼女も同じのようだ。だからなのだろう。彼女の話は行ったり来たりで、聞いているのは楽しいけれど、たまに思考がついていけなくなる。いきなり全く関係のない話が飛び込んでくる。そしてその話がどこかに繋がることはなく消えて行く。まるで僕の人生に似ていると感じた。
まぁ、人生に行ったり来たりは出来ないけれど、僕は二つの世界で生活をしているから、ある意味では行ったり来たりをしていると言える。突然戦場で危険な目に遭うことは多いし、突然恋人にふらることもある。そしてどちらも僕の人生には影響を与えていない。
一般市民の街は、お金持ちが自由に遊びながら過ごすための街だという。お金持ちっていうのは、会社を経営したり発明や研究をしたりしてお金を得ている人達のことだ。学校の先生や先程の役所の人間も含まれる。つまりは自分ではなにも生み出せない人達が集まっている。経営者は社員が働いて得た報酬を搾取する。発明家や研究者は好きなことをやっているだけで実際になにかを生み出しているのはその後に関わる会社員達だ。結果として大儲けできることもあるけれど、大抵の発明や研究は一文にもならない。それなのに彼らは国からお金を貰って好きなことをしながらお金を貰っている。結果として、殆どの発明家と研究者が遊んで暮らすことになっている。本当に優秀な発明家や研究者は、労働者の街にいるそうだ。学校の先生や役所の人間も国からお金を貰っている。こっちの人間は初めから遊ぶことを目的に自ら選んでいる。楽して暮らすには先生から役所の人間と相場が決まっている。勿論誰にでもなれるわけではない。それは発明家や研究者も同じで、テストに合格する必要がある。つまりは勉強だけは上手でないといけない。そして、普通の社会では生きていけない不適合者でなくてもならない。普通に一人でも社会で生きていけるような人は合格できなってことだ。そもそもそんな人間がテストを受けることは少ないけれど。
つまりは一般市民の街に本当の意味での一般人はいないってことになる。普通の人間はここでは生きていけない。生きたいとすら思わないのが現実だ。
まぁ、全ては彼女の主観的な意見ではあるけれどね。
ただ、どこの世界にも例外はある。一般市民の街だって例外じゃない。特に元からこの街で生まれ育った世代に例外が生じるようだ。カエルの子はカエルじゃないってことだよ。鶏の子も同じだ。
これもまた、彼女の主観だよ。
けれど現実は、カエルが産んだ卵はオタマジャクシになってからカエルになるし、鶏の卵もヒヨコから鶏になる。一時の気の迷いはあっても、結局は親と同じ道を歩む者が多い。
そんな中生まれた例外達が集まっているのが今向かっている革命を企てているグループだそうだ。名前はまだついていない。世界のお偉いさん方からもまだ目をつけられてはいないそうで、外から呼ばれる名前もない。