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男性は四人いた。横に並んでの姿が、怖くもある。真っ黒なスーツを着ていて、ネクタイも黒かった。中のシャツだけが真っ白い。
行くわよ。
僕の脇から降りていた彼女はそう言いながら先を歩く。男性達には見向きもせずに横を通り過ぎる。
僕達三人は後をついて行くことしか出来ない。彼女がとても堂々としていたからだ。男性四人の横を通り過ぎる際に目だけはチラッと向けたけれど、顔を向けることはしなかった。してはいけないと感じてしまった。それは彼も彼の恋人も同様だった。
あの四人は誰?
真っ直ぐに歩き続けている彼女の横に並んでそう言った。後を少し振り返ったけれど、小さくなった四人はまだ頭を下げているようだった。
あんまり見ない方がいいわよ。目からビームが出てくるかも知れないから。
彼女の言葉に僕は笑ったけれど、後をついて来る二人は笑わなかった。むしろ表情を固めているくらいだ。
ひょっとしてミカの家族だったりする?
本気ではないないけれど、かも知れないとは思って聞いた。
それはないわよと彼女は眉間皺を寄せて言う。そんな絶対に嫌よ。
あれはこの世界の役人よ。みんなが同じ格好をしている。特に決まった制服ではないんだけれどね。せめてネクタイくらい変えて欲しいわよ。あれじゃあいつまで経っても平和なんてやってこないわ。
彼女の言葉は意味が分からないことだらけだけれど、僕はそうなんだと気のない返事をする。
噂では聞いていたけれど、やっぱり異様だな。
彼がそう言うと、彼の恋人はこう言う。
何度見てもいい気分はしないわよ。特にあの目つきが好きじゃない。
彼の恋人に来たことがあるのかと聞いたら、地下空間だけなら私は自由なのよと言われた。さっきも説明しなかったかしら?
それじゃあさっきの入口も二重になっていると知っていたってことだ。そう考えていると、先に彼女の口が開く。
私が通る道は特別だから、さっきの道とは違うのよ。恋人専用の通路がここにはいくつも隠されている。
だったらそっちを通ればよかっただろと、当然の疑問を抱いた。けれどそれは難しいそうだ。その道は本当の意味で恋人しか通れない。道幅も狭いけれどそれが問題ではなく、軍人を連れ歩くことも許されていない。監視されているのは当然として、センサーの反応で立ち入った瞬間に恋人以外は肺と骨にされてしまう。まぁ、センサーを解除すればいいんだけれど、どこでどう解除すればいいのかが分からないという。
それに私は、上の世界には行ったことがないしね。