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昼食の時間を知らせるベルが鳴る。起床時とは違う柔らかい音色だ。僕達は、ベルの音色から音楽を学んでいたのかも知れない。
食事後に休憩を挟んでまた勉強が始まる。勉強中にはトイレにも行けないけれど、必ず休憩を取らせてくれる。楽しい時間が過ぎるのは早く、いつの間にか意識が薄くなる。就寝時間とは別に、ソファーで横になる。自然と目を瞑り、眠りの世界に入っていく。
眠りの世界が存在することは、当たり前だと思っていた。後になって知る夢の世界とはまた別の世界であることに疑いはない。夢は妄想に近い。眠りの世界はもう一つの現実だと思う。痛みだけでなく、物質的証拠も存在する。
眠りの世界の僕は、いつも決まった友達と遊んでいる。髪の赤い女の子と、髪の長い男の子。最初の記憶では砂場で山を作っていた。大抵は青空の下の公園で遊んでいる。ときには曇り空だったりもする。外の世界で遊んでいることに違和感がないのが不思議だった。元の世界に戻ったときには必ず、窓に近寄り空を見上げていた。あの空の下に、いつか出ることがあるのだろうかと思案する。
僕の身体が成長すると、眠りの世界の友達も成長する。遊びの種類が変化していく。この部屋にはないもので遊ぶことが多い。この部屋ではお絵描きぐらいしかすることはない。踊ったり歌ったり暴れたりは出来るけれど、道具がなくても身体だけで出来る遊びは眠りの世界では遊びとは呼ばないようだ。音楽にダンスにスポーツ。全てが勉強の一種に数えられている。
お絵描きもまた、半分は勉強だという。僕が絵を描いて見せたら、それは遊びじゃないよと言われた。そういう絵は、芸術なんだよと言われた。
眠りの世界での時間は物足りない。いつも消化不良で元の世界に引き戻される。