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彼はやっぱり強いなと、僕は背後の二人の攻撃を避けながら眺めていた。僕は避けるのが得意なんだ。戦場で長く生き抜くには、攻撃を受けないことが一番大切なんだよ。けれど流石に彼女を背負いながらだと分が悪くなるのも時間の問題だ。僕は振り返って戦う準備を始めた。戦いにはイメージが大切なんだ。一瞬の閃きで得た情報をすぐさま表現する。それが出来ればまずやられない。
えいっ! このーっ!
流石にこの予定外には驚いた。閃きが一瞬で消えていく。
背中の彼女が戦い始めた。黒い手提げ鞄をぶん回す。
ゴツンッ! ゴツンッ!
流石に敵側の軍人も驚いたようだ。動きが止まり。彼女の攻撃を頭に喰らう。
けれどそんなんじゃあ倒れやしない。痛みすら感じていないはずだ。ただ、驚きが終わらないだけだ。あまりに予想外過ぎる出来事に遭遇すると、思考は停止する。そしてそれが長く続けば、待っているのは危険だけだ。
よーっしっ! どうだーっ!
彼女は黒い手提げ鞄をぐるんぐるんと縦回転させた。そして二人の軍人の顎を撃ち抜いた。
バタンッバタンッと、二人が倒れた。
顎を撃ち抜かれる直前に、二人の軍人の目が覚めたかのように見えていた。僕はイメージした。スッとかわして彼女の顔面と腹を捕らえる二人の軍人の姿をだ。
僕は殆ど無意識に二人の軍人の膝裏を蹴り飛ばしていた。
倒れた二人の軍人にトドメを刺したのは、彼だった。
随分と楽しげな戦い方をするんだな。
彼の口先は笑っていたけれど、その目は笑っていない。
この先はきっと、もっと強いのが襲って来るぞ。
そんなことを言われても困る。軍人が僕達を襲う理由ってなんなんだ? 僕と彼を追いかけるためだとしたら、無意味だって思う。それは僕達が優秀な軍人だからとかじゃなく、僕達を殺しても世界は変わらないからだ。
まぁ、それを言ってしまえば戦争なんて無意味の他ないんだけれどね。
少なくとも僕は秘密を握っていないし、反旗を翻すつもりもない。ただ戦争を辞めたいだけだ。彼女と二人で平和に暮らしたい。出来ることなら、家族を儲けたいんだ。