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彼の恋人は、元々は支配者の街で生まれている。それは僕達のような曖昧な記憶ではない。二十歳の誕生日に貰えるノートは、信用出来ないと彼は言う。彼の恋人も同じ意見だそうだ。恋人達もまた、二十歳の誕生日にそのノートを受け取るそうだ。
彼女は恋人達の部屋で暮らすようになったのは、十五歳を過ぎてからだった。当然それ以前の記憶を備えている。にも関わらず、ノートにはまるで違う幼少期の絵が描かれていたそうだ。本名さえ差し代わっていた。
彼の恋人は、この世界を知っている。それは間違いがない。けれどどうして? 彼女のような人物が普通に恋人として生きていくのは危険でしかない。いくら素質があっても、現実の世界を知っている者が非現実に生きる世界に混ざれば混乱が起きる。そんなことは世界の常識を知らない僕でさえ分かる。
その答えは、簡単だった。彼女が恋人として生きることになったのは、自らの意思じゃない。素質を見込まれ、無理矢理連れ去られた。しかもその際に、薬を飲まされ記憶を改ざんされている。催眠術のようなものもかけられている。
薬は毎月飲ませる為、記憶が戻ることはまずないという。催眠術も毎月かけている。
彼の恋人は、特別だった。記憶が戻ったのは、十八歳を過ぎた頃からだった。
恋人達は十六歳から外に出る。軍人よりも一年遅い。その理由は身体的なものらしい。
彼の恋人は軍人達と寄り添って眠っている際に夢を見る。夢の中で記憶を取り戻すようになったらしい。僕と同じなのかと興味を持ったけれど、ちょっと違うようだ。彼の恋人の夢は過去の自分が登場する。その時々の軍人と一緒に過去の自分を探して、なにをしているのかを観察する。僕も何度か一緒に探したそうだ。
そんな中で徐々に記憶を取り戻したそうだ。とは言っても、完全に取り戻したのはつい最近のことだと言う。それまでは部分的に思い出していたに過ぎなかった。まぁ、部分的にでも思い出した時点でこの世界に疑いを持っていた。そしていつか抜け出そうと画策も始めていたという。