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鞄の中を探ると、その下には財布とハンカチとマスクが入っていた。それからリップが四本もある。なんに使うのだろうか? 冬には乾燥防止のため僕も一本は常備しているけれど、四本も持つ必要はない。一本以外はゴミなのか? それとも香りが違うのか? 全てを確認したけれど、どれも新品で香りは同じだった。カラーはそれぞれだったけれどね。
マスクは普通の不織布製の白だった。軍人が使うガスマスクとも粉塵マスクとも違う簡易的な使い捨てマスクが一枚だ。ハンカチはよく分からない青い身体のアニメキャラクターが描かれている。どれも調べたけれど、IDは入っていない。
本来なら大本命の財布を調べる前に、鞄そのものを調べてみたけれど、怪しい感触はなかった。財布の中に入れるのは一般的ではあるけれど、彼が一度確認しているんだから可能性はゼロだ。
現実ってのはいつも裏切る。ないと思ったらある。あると思ったらない。ないけれどあると思ったけれどやっぱりない。だから僕はなにも考えないことにした。ただ単純な興味本位で財布の中身を覗いてみる。それはそれでちょっと変態的だなと思うけれど。
中にはお札とコインが入っていて、よく分からないカードも数枚ある。残念だけれどカード型のIDはなかった。
けれど、小銭の中におかしなものが混じっていた。カエルの形をした金色の塊。その大きさはコイン程だけれど、明らかにコインより重かった。
これがIDかどうかを調べる方法はいくつかある。一番簡単なのは、僕の腕にかざすことだ。それがIDであったならバーコードは、反応を示す。そして見事に反応した・・・・ とはならなかった。期待はやっぱり裏切られる。
うぅーん・・・・
僕がそんなことをしている間に、彼女の意識が戻っている。僕はすぐに駆け寄り、話しかける。
大丈夫かい?
気の利かないつまらない言葉しか言えない僕は、つまらない。
・・・・ここってどこなの?
彼女は辺りを見回しながらそう言う。そして最後に気がつく。ここって、病院なの?
そうだよって笑顔で答える僕に対し、彼女は眉をひそめる。
そうじゃなくって・・・・ ここは戦場じゃあ・・・・ ないようね?
そうなんだと、僕は誇らしげになる。ここは君が暮らしている街だ。しかも大きな病院の中なんだ。口には出さないけれど、僕の想いは十分彼女に通じている。
どうやってここに? ・・・・あっ、傷が治っている。そうか・・・・ 私のこと、気がついちゃった?
彼女は起き上がりながらそう言った。その笑顔が、僕には嬉しい。
もう大丈夫だから、はやいところここを出ましょう。ここにいてはジョージの身が危ないわよ。
彼女は腕に刺さっている点滴を取り外し、ベッドから立ち上がった。
そんなことないだろ? ここに来てから僕はずっと自由だよ。危険な目には一度も遭っていない。
そうかも知れないわね。ここの人達はみんな親切だから問題ないのよ。けれど・・・・ そうじゃない人が周りにはいっぱいいるのよね。
彼女は窓の外に見える大きな建物を睨んだ。ように感じられた。