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窓際にある彼女の病室からは外がよく見える。いつの間にか朝になっていたようだ。雲一つない青空を見るなんて、久し振りだなと感じている。
ここから見る景色は、なんだか眠りの世界とよく似ている。
大きな建物も小さな建物もある。木々は少ないけれど、遠くには山が見えている。鳥の囀りが聞こえてもいる。乗り物の騒音も、ここでは嫌な音に感じられない。
これからどうするべきかと考えながら僕は、彼女の黒い手提げ鞄の中を確認しようと思い立った。
そこで僕は気がついた。彼女の黒い手提げ鞄はさっきからずっと僕の左手にぶら下がっていたことに。
中を確認すると、彼女の洋服がまず見える。ボロボロになって血だらけだけれど、僕は一枚一枚丁寧に広げて畳み直した。
どこかにIDが隠されているかもと思っていたけれど、どこにもなかった。
IDには様々な形が存在する。埋め込み式にしても種類は豊富だ。彼女の身体の何処かに埋め込まれている可能性は否定出来ない。けれど、大抵は携帯式を持っていると聞いている。埋め込まれるのは軍人と犯罪者ぐらいだって噂を聞く。それ以外でもいなくはないけれど、とても珍しいそうだ。まだ実験段階ではあるけれど、人型ロボットには当然組み込まれている。
人型ロボットの噂は随分と前から聞いている。その内軍人は全てロボットになるっていう噂だ。実際には見たことがないけれど、既に実用されている可能性もある。これは噂ではなく、僕の勝手な意見だけれどね。やたらに頑丈で動きの速い軍人が多くなってきたなって感じることがある。
洋服の下にはトランシーバーが一つある。周波数は合わせてある。彼に連絡してみようかと思い、ボタンを押した。基本電源は入れっぱなしだ。太陽電池を採用しているから消耗の心配はない。
今繋がるのは彼しかいない。彼が出てくれればだけれど、タイミングは難しい。彼が常に肌で感じられる場所に身につけていればいいけれど、その可能性は少ない。僕が鞄にしまっていたのと同じ理由だ。
どうぞ! もしもし! ・・・・やっぱり彼には繋がらない。