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扉の向こうはエレベーターのはずだった。出て行った医師もエレベーターに乗ったものだと勝手に思っていた。けれどそうではなかったのかも知れない。少なくとも彼女と僕は違っていた。扉の向こうには廊下が奥と左右に伸びていた。
彼女は左に曲がっていく。それから突き当たりを右に行くと、そこには透明のドアがあり、一旦停止した。
彼女を運ぶ二人の医師は、緑の前掛けをそこで脱ぎ捨て、端に置いてあるゴミ箱に捨てた。僕もそれを真似して脱ぎ捨てた。
一人の医師が壁に埋もれた四角いそこだけ真っ黒な場所に手の平をかざす。そして、ピッと音が鳴ったその後になにやら番号を書き記した。
するとドアが開いた。
透明のドアの先は、長い廊下が続いているように見えていた。医師が番号を押す前まではそうだったと確認している。
けれどドアが開いた瞬間に見えたのは、病室だった。いつの間にかそこが病室になっていたのか、初めから病室だったけれど見えないように細工をしていたのかの判断はつかなかった。
病室は僕の家の部屋より広い。彼女はベッドの上に運ばれた。そして初めから用意されていた点滴の管を腕に刺された。
暫くすれば目を覚ますでしょうから、そのときはこちらのボタンを押して下さい。
医師の一人にそう言われた。ベッドの脇に嵌め込まれているそのボタンは、ちょうど彼女の手がぶら下がる位置にある。
僕が分かりましたと言うと、二人は部屋を出て行った。それではお大事にとの言葉を残して。
僕はありがとうございましたと頭を下げた。