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ヘリコプターが止まったのは建物の屋上だった。そこには白衣を着た女性が二人待っていた。降ろされた担架を救急隊員の二人が運ぶ。その後を女性二人と僕がついて行く。
準備は出来ています。急いで下さい。
彼女達の声に促されて隊員の足が速くなる。
こちらですと案内された先には大きなエレベーターが扉を開けて待っていた。プロペラが吹かす風に負けないように走った距離はわずか数十メートルだったけれど、とても長く感じた。
それでは我々はこれで失礼いたします。担架は西第八地区の訓練広場の管理室からお借りしております。返却のほどよろしくお願いします。
エレベーターの中に入ると隊員の二人がそう言った。そして担架を置いて出て行った。
それでは患者様のご回復をお祈りいたします!
二人が揃って敬礼をすると、エレベーターの戸が閉じ、ぶおーんっと体内に音が響いた。下に降りて行くのを身体で感じる。
外から見た建物はそれほど大きくはなかった。十階建てくらいの筈だ。隣の建物はその何倍も背が高かく幅も広い。
けれど病院の敷地は同じくらい広かった。隣り合っている建物ではあるけれど、間の距離はかなり広い。ライフルで狙撃をするにはトップレベルの腕が必要だ。僕の腕では難しいと思われる。
エレベーターにしっかりと乗るのは初めての経験だけれど、こんなにも長いのは初めてだった。眠りの世界では気がつくとエレベーターに乗っていたり、エレベーターに入った瞬間に現実に引き戻されたりすることが多く、まともに移動をした記憶はない。けれどやっぱりこれは異常だと感じている。流石に長すぎる。十階分を降りるのにかかる時間とは思えない。病人を運ぶためにゆっくりなんだとしても限度がある。これなら地上に降りた方が良かった筈だ。地上もヘリコプターが降りれる敷地はあるように感じられた。
もうすぐですからね。初めての方はみんな驚くんですよ。ここのエレベーターは他とは違って特殊ですから。
そうなんですよね。デパートのようにガラス張りにすれば綺麗でいいのにって提案しているんですけれど、なかなか受け入れてもらいないんですよ。
ここが何処にあるか知ってます? 聞いたらきっと驚きますよ。
こら! 流石にそれは言っちゃダメよ! 聞いてなかったの? この方達はちょっと特別なんだから。
二人の会話には興味がある。けれど今はいちいち聞いても仕方がない。知りたいことは後で知ればいい。ここにいる限りはどうとでもなるだろう。
ぐぅうーんと腰の辺りに重力を感じた。目的地に到着したってことは分かる。それにしてもこのエレベーターは不思議だった。目的地を押すボタンがない。直通ってことなのか?
さぁ、着きましたよ。
これでもう安心ですね。彼女は絶対に助かります。ここはそういう場所ですから。
二人は必ず交互に話をする。決まって髪の毛がほんのり赤い子から会話が始まる。二人は背丈も顔もよく似ていて、髪型も揃っている。声は少し真っ黒な髪の毛の子の方が高くて早口でもある。