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バッタンッバタンッと乱暴なモノ音が聞こえてくる。どうやら到着したらしい。ヘリコプターで来るなんて、お偉いさん方レベルだなと感じた。
急患がいるとの報告を受けて参りました!
オレンジのツナギを着ている若い男性二人が部屋に飛び込んでくる。
ちょっと退いて下さい! 僕とおじさんは乱暴に押し退けられ、二人は彼女の前でしゃがみ込み、なにやら話しかけながら顔や身体をチェックしている。
付き添いの方ですか?
一人が僕に話しかける。
そうです。彼女は助かりますか?
こういうときに言う言葉は決まっている。それは僕だけでなく、周りのみんなが同じようなことしか言わなくなるんだ。
大丈夫ですよ。信じて下さい。必ず助かりますから。
お願いします。僕は頭を下げてそう言う。
表でヘリコプターが待機していますから、一緒に来て下さい。
もう一人がそう話しかけてくる。僕は分かりましたと頷く。
担架が押されて彼女が外に出て行く。僕はその横から離れない。今一番恐れているのは、彼女と離れ離れになることだ。
待ち構えていたヘリコプターに担架が乗せられていく。回転するプロペラは、嵐のような風を巻き起こす。まるで僕の感情を表しているようだと感じる。
早く乗って下さいと、二人が揃って声をかけてくる。僕はなにかを忘れている。なんだ・・・・ 必死になればなるほど記憶は遠くなる。