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 公民館のような建物が、訓練場の本部になっている。僕はこれまでに一度も中に入ったことがない。訓練中の負傷者が行く場所になっているけれど、ちょっとくらいの怪我は自分で処置するからだ。看護部隊と救援部隊の姿も、当時は見たことがなかった。

 公民館のドアは開けられていた。中に入った僕は、こう叫ぶ。助けてくれ! 怪我人がいるんだ!

 建物の奥から物音が聞こえてくる。誰かがいるのは間違いない。これで助かったんだと、ほっとする。

 なんだなんだ? こんな時間に来るなんて、暗殺者にでも襲われたのか?

 そう言いながらやって来たのは、僕よりも随分と老けて見えるおじさんだった。軍服ではなく、白衣を纏っている。

 どれどれ、ちょっと見てみようか・・・・

 近づいて来たおじさんは、躊躇なく彼女の傷口辺りを触り、それから彼女の顔と首筋を確認した。

 向こうのベッドに運んだ方がよさそうだな。

 言われるがままにするしかなかった。

 これは・・・・ 処置としてはまずまずだが、やはりここではちょっと手に負えんな。

 そんなおじさんの言葉に驚いた。僕はてっきり、ここに来れば怪我が治ると思い込んでいたんだ。

 どうしてだよ! 彼女は治らないのか? このまま死んでしまえってことか?

 それは戦場ではよくあることだった。怪我の具合が悪く、その場では手の施しようがない場合はそれ以上の治療はしない。そのまま放っておくしかないんだ。設備の整った場所に行けば治る場合でも、そんな時間も余裕もないときは仕方がない。戦場では常に余裕がない状態なんだ。

 そうは言っていないが・・・・ このままではそうなるかも知れない。

 それじゃあどうすればいい? なんでもする! なんでも言ってくれ!

 ジリリリリーンッ! と小さなベルの音が聞こえて来た。すぐにはそれがなんの音なのか気がつかなかった。

 僕はその音を聞くのが初めてだった。似たような音なら聞いたことがある。訓練中に休憩が入るときの合図がそうだ。訓練中の休憩は不定期で、大きめのベルが一度なってからもう一度なるまで休憩する決まりになっている。

 ちょっと待ってなと、おじさんは奥の部屋に戻っていた。そしてなにやら話し声が聞こえてきた。はっきりとは分からなかったけれど、おじさんの声が少し丁寧で、その声が一つしかないのは感じられた。

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