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 お姫様抱っこは、意外と大変なんだ。見栄えはするけれど、重たいんだ。特に意識を失っていると重さが倍増する。

 僕は彼女に声をかけながら歩いていく。それは、彼女を励ますためではあるけれど、自分を鼓舞するためでもある。

 訓練場までの距離はまだまだ遠い。一秒でも早く彼女を助けたい。気持ちだけが前のめりになる。ほんの小さな段差や小石に何度か躓いて転びそうになった。

 僕は考える。訓練場には看護部隊と救援部隊が数名常駐している。その誰かに助けて貰えばいい。彼はきっと、そのために電話をしていたんだ。電話が通じる場所なんて限られている。まさか別の街になんてかけないだろうから。

 訓練場には特定の出入り口がない。どこからでも入ることが出来る。一見すれば広めの公園でしかない。そこに軍人が出入りしているってだけだ。

 公園の中にも小さな建物がある。普通はトイレか公民館だ。まぁ、トイレはこの街にもあるけれど、公民館なんてものはこの世界では聞いたこともない。ただ僕は、眠りの世界では何度も行っている。習字や空手などを教わる場所だ。習字っていうのは文字を書くだけだ。黒い液体を束になった毛につける。そして真っ白な紙に文字を書く。束になった毛は筆と呼んでいた。なんだか雨粒みたいな形をしていて、その毛先がほんのり尖っていて可愛らしい。空手は軍人の戦闘術に少し似ている。その服装が特殊なだけだ。分厚い布で作られた上着を裸に羽織る。腹前で重ねて同じ布で作られた帯で締める。ズボンの生地は薄くて丈夫なものを使用している。ほんの少し太めなサイズ感は、僕の好みではない。

 眠りの世界では、全てが途切れ途切れだ。その日の一部分を切り取っているだけで、次の日にはもう続きなんて見られない。僕達の世界と同じように時間だけは進んでいく。習字も空手も、現実の僕には中途半端な記憶しかない。けれど眠りの中の僕はそれとは関係なしに記憶を重ねて成長している。

 それにしても不思議なことがある。記憶はなくてもどちらも現実の僕の身についているってことだ。僕は空手が出来る。習字はその道具がないから今はまだやってはいないけれど、字はかなり上手だ。

 眠りの世界での行動は、現実に通じている。っていうことは、逆もあるってことだ。僕の今までが、眠りの世界に影響を与えているのかも知れない。いつかその真実を知るときが来ると、僕は予感している。

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