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それで、僕はこれからどうすればいい?
僕が彼にそう聞いた。
そんなの俺に聞かれても困る。まぁ、この子を助けたいんなら大きな病院に行くべきだな。何処にあるのか、俺は知っている。
彼の言葉を聞いた他の軍人達が固まった。
居酒屋はいつの間にか元の雰囲気を取り戻していた。男の死体は外に掘り出され、軍人達はアルコールを楽しんでいる。レコードを回して音楽を聞いては踊ったりもしている。
けれど、彼の言葉に全てが止まる。レコードさえ、回転するだけで音楽を流さない。
この中で街を出たことがあるのは俺だけだ。俺がそこに行く方法を知っていてもなんら不思議はないだろ?
彼は僕にではなく、その他の軍人に向けてそう言った。
彼の言葉を聞いたその他の軍人達が動きを再開させる。誰かがアームを持ち上げながらずらし、レコードを裏返してからまたアームを落とすと音楽も再開した。
基本軍人は他人に口出しをしない。ほんの少し興味を持っても、深入りはしない。余計な面倒ごとに首を突っ込めば危険な目に遭うことを嫌というほど経験しているからだ。
彼女がいなくても、軍人達はアルコールを飲む。料理は作れなくても、冷蔵庫や棚から勝手に取り出した瓶からグラスに注ぐことは難しくない。氷だって入れられる。お水も用意出来る。まぁ、許可を取らずに勝手にやっているだけだけれど、それは普段からの光景でもある。彼女は軍人達を信じている。カウンターの中に入っても邪魔をしなければ怒らない。むしろ手伝ってくれて感謝をするくらいだ。当然、この街の軍人達は嘘を吐かないし、盗みもしない。お金を払わなかったり誤魔化したりなんてしない。少なくとも彼女はそう信じている。
どこに行けばいい? 彼女のためならなんでもする。お願いだ、病院に連れて行ってくれ。
僕がそう言うと、彼は笑った。
俺がか? お前は面白い奴だな。場所と行き方だけ聞くのが普通だろ? 俺がついて行くなんて、あり得ないだろ?
別にいいんじゃない? みんなで行く方が楽しくなるし・・・・ っていうか今はそんなこと言っている場合じゃないんだ! 僕一人じゃ時間もかかるし、助けて欲しいんだ!
僕は思わず叫んでしまう。彼女を助けるためには必死になる。必死に彼を睨みつけていた。
・・・・まぁ、そんな怖い顔はしない方がいいな。助けるのは構わない。だったらついでに俺たちのことも助けてもらうぞ。
深くは追求せずにもちろんだと答えた。
それじゃあまずは店じまいだ。悪いけどみんな! 今日はもう帰ってくれ! 金はテーブルに置いていきな!
彼の声を聞いて文句を言う軍人はいなかった。黙って片付けを始め、お金を置いて帰って行く。帰り際には彼女に向けて言葉を残す軍人もいたけれど、その声はとても小さかった。それでも彼女の心には届いていたようで、その度に首が小さく動いていた。