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 僕は恋人に言われたことをそのまま彼女に話した。彼はただ真っ直ぐだけを見つめ、無表情にウィスキーを飲んでいた。

 そんな・・・・

 彼女の顔が青褪めていく。肘をテーブルにつけて左手で頭を支えるようにオデコに当てる。

 大丈夫?

 か細い声しか出てこない。

 ガタンッ!

 支えていた肘が崩れた。

 ガチャンッ!

 右手に持っていたグラスが手から滑り落ち、テーブルを転がる。

 バリンッ!

 床に落ちてグラスが割れた。

 おいっ! 大丈夫か!

 僕はすぐに彼女の肩を揺すった。それから顔を覗き込み、オデコに手を当てる。瞼を開けて瞳孔を確認する。大丈夫。死んではいない。

 大丈夫だよ。僕が付いているんだ。

 彼女の背中をさすりながらそう言った。

 お前の方こそ大丈夫なのか?

 彼がそう言った。

 僕は全く気が付いていなかったけれど、彼の視線を追っかけて足元に目を向けて驚いた。

 普段の僕は戦闘服なんて着ない。訓練場と戦場以外で着るのは行き帰りの道中と寄り道場所だけだ。休みの日や一旦家に帰ってから出かけるときは普通の洋服を着ている。

 僕以外の軍人も大抵は同じ考えを持っている。彼もそうだ。中には戦闘服のままだったり、学生服のような軍服を着ている者もいるけれど、僕はそんな奴とは仲良くなれない。彼女の店でもそんな奴らを常に数人は見かけてはいるけれど、話をしたことは殆どない。

 僕はサンダルを履くことが好きだ。余程の寒い日でなければ冬でも履いている。

 流石にここままじゃまずいな。

 彼はそう言いながらその場にしゃがみ込んだ。ちょっと痛いかも知れないけど、我慢できるよな。

 左足の甲にグラスの破片が突き刺さっていた。グラスの四分の一程はある大きな欠片が、意外に広く深く刺さっている。すでに大量の血が流れてもいた。痛みを感じないのは、彼女のことに気が向いているからだ。

 彼は躊躇なく破片を抜いた。溢れ出る血の量が恐ろしい。彼はすぐに傷口を手で強く抑えた。血の巡りが混乱しているのを感じられた。左足首から下がジンジンする。

 本当なら病院にでも行くべきだ。

 彼はそう言いながらテーブルのおしぼりを手に取った。そして傷口を押さえつけながらぐるっと巻きつけた。

 家に帰ったら恋人にでも手当してもらうんだな。恋人達はみんな看護が上手だから。

 何故だか薄笑いでそう言う彼を睨んでみたけれど、反応は返ってこなかった。

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