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僕達軍人には、月に一度の表彰式がある。毎月二人が選ばれるんだけれど、なんのためにしているのかの意味は分からず、特に選ばれても嬉しくはない。お金と賞状が貰えるだけで、価値は感じられない。賞状は紙切れに過ぎないし、お金に困っている軍人は見たことがないからだ。
その賞は敵を一番多く殺した軍人と、敵を一番殺さなかった軍人に与えられる。
多く殺したってことは、それだけ敵の戦力を減らしたことになる。殺さなかったってことは、別の平和的な解決策を講じたってことになる。らしい。
どちらかというと、殺さないことの方が難しい。戦場で敵を殺さずに生き延びることは簡単じゃない。ただ逃げ回っていただけだとしても、そこには知恵が必要だ。物陰や穴蔵で震えていては、いずれ必ず見つかってしまう。平和的な解決で相手を騙す必要が生じる。逃げ回るのも同じことだ。敵や味方を騙さない限りは、自分が殺されて終わりなんだよ。
僕は何度か表彰されている。勿論、多く殺した軍人としてだ。
彼も一度、表彰されている。彼は殺しを好まない。一人も殺さずに表彰されたのは、僕の知る限りでは彼しかいない。
殺さずで表彰されると、教官に選ばれることが多いと言われている。それには二つの理由があると噂されている。
一つは単純に、未熟な訓練生を生かして帰すには適任だからだ。二つ目は、敵を殺さない軍人は必要としないっていう本音があるからだ。教官は死ぬ確率が高い。というか実質百パーセントだ。葬るにはもってこいの役割なんだよ。
けれど彼は、教官として派遣されたにも関わらず生きて帰ってきた。
彼の偉業に対してお偉いさん方が全く反応をしていないってことは、ある意味恐怖だった。僕はいつの日か、彼が暗殺されるかもって感じている。僕以外はそこまではしないだろと笑っているけれど。居酒屋の彼女だけは少し違っていて、ジョージなら助けられるんじゃないのなんて笑いながら言われた。
けれど当の本人が全く無関心な様子を見せている。だったら取り敢えずは放っておけばいい。彼は馬鹿じゃない。なにかがあれば自分から助けを求めてくるはずだ。
彼も僕と同じで最古参だ。そろそろ身の振り方を考えているんだろうか? それともなにも考えていないのか?
今度ここに連れて来なさいよ。
居酒屋で彼女に彼のことを話すと、そう言われた。それもいいかもな、なんてことを思ってしまった僕は大馬鹿だったのかも知れない。