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僕はそろそろ覚悟を決めないといけない年頃だ。最古参だからではない。この先はもう体力的に限界なんだ。ライフルを担いで走り回るのは身体に堪える。
年を重ねた軍人にはチャンスがやってくることもある。何故だか僕は選ばれてしまったようだ。
新しい恋人は、僕のチャンスには無反応だ。ただの業務として知らせてくれたけれど、まるで興味を感じていない。
あなたがそうなのね。
この部屋にやって来てすぐ、恋人はそう言った。
どういう意味かなんて分からずとも、僕はそうだよと笑顔を見せる。
女性との会話には愛想が必要なんだ。
それでどうするつもりなの?
ベッドを共にした後、彼女がそう言った。
僕につもりなんてなかった。そもそも恋人がなにを言いたいのかを理解してなんていなかったんだ。僕達は、あまり深入りした会話を好まない。
とはいっても気になることはある。
あなたはラッキーよ。今年選ばれたのはたったの一人なんだから。あなたって、特別なのね。
少しだけど、魅力的な言葉だと思った。
それで僕はなにに選ばれたんだっけ?
決して知らないとは言わない僕は格好悪い。
あなたはこの街を出れるのよ。軍人さんの本部に呼ばれたんだから、いずれはあなたもお偉さんってことよ。
僕がお偉いさん方の一人になるなんて想像は出来ないし、なりたいとも思えない。けれど、この街を出て行くことが出来るのは嬉しいと感じる。両親を捜せるかも知れないし、正直に言って飽きていた。十五歳から戦場で毎日のように誰かを殺してきたんだ。僕の身体には他人の血の匂いが染み込んでいる。シャワーでは洗い流せない他人の血が。
そうなんだ。
それしか言えない僕がいた。はっきりとしたことを言ってしまえば、すぐにでも話は進んでしまう。それは噂でも現実でも耳にしている。何事も焦ってはいけないってことだ。
恋人の言葉には嘘がない。感情は見せないけれど、思ったことと誰かに言われたことしか口にしない。
僕達の言葉はすぐにお偉いさん方に伝わっているらしい。恋人達は、聞かれなくても全てを報告しているっていう噂だ。勿論例外は多々あるだろうけれど。
だから僕達は、恋人の前では下手なことを言わない。お偉いさん方への悪口は当然として、戦争への疑問も口にはしない。基本的にはだけれど。
隣の部屋の彼は、恋人との密度が濃い。彼の恋人は僕の元恋人でもある。他の恋人達とは毛色が違う。彼がのめり込むのも理解は出来る。僕とは合わなかっただけで、あの子の魅力は相当なものだった。