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初めての戦場は、想像とは少し違っていた。どんなに真剣に取り組んでいても、訓練はあくまでも訓練なんだ。現実には追いつけない。だからこそ訓練中も頻繁に戦場に連れて行かれていたけれど、教官に守られながらのただの見学と現実に戦うのとではまるで別の場所に来ているんじゃないかと感じるほどの差異がある。空気感も違っている。
しかも訓練は顔見知りとの戦いだ。戦場では見ず知らずとの殺し合いをする。僕なんかの想像では到底まかないきれない。
僕は先頭に立って敵へと突っ込んでいく部隊に配属された。
何故そうなったのかは分からない。教官達が僕達の資質をチェックしていたとは思えない。日々入れ替わっていく教官達に、そんな暇はなかったはずだ。
けれど、配属先に文句を言う軍人は一人もいない。それどころか適材適所だと誰もが納得をしている。
その理由は血筋にあるっていう噂だ。DNAがどうとか言われても僕には意味が分からない。DHAなら眠りの世界で聞いていたけれど。
配属されてから気がついたことだけれど、この建物の部屋割りもその血筋とやらに関係しているようだ。階毎に配属先が分かれている。僕がいる階の前後合わせて三フロアが突っ込み型の先行部隊になっている。ランダムに配置された部屋を基準にしているっていう噂は少ない。その能力差が部屋毎にあまりにも大きくあるからだ。
十二歳になるまでは、自分達が軍人になるとは思いもしていなかった。そんな発想は湧いてこない。噂話も存在しない世界で暮らしていたんだ。隣に部屋があることも別の建物に人が住んでいることも知っていた。けれど顔を合わせることも会話もしてはいない。
天井から聞こえてくる声は一方的で、会話にはなっていない。僕が知りたいことを声に出すと、翌日には答えをくれることがある。けれど、その場では全くの無反応だ。
階毎に違う教育をしていた可能性はある。そもそも僕にはあれが意図的な教育だったとは思えないし、隣の軍人に聞いたら僕とはまるで違う時間を過ごしていたというけれど、相手を見ながら洗脳していた可能性も否定は出来ない。