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カツンッカツンッと足音が聞こえる。二つの足音だ。僕は前日の夢を思い出す。学生服姿の二人の姿を頭に思い浮かべた。
広場全体に緊張が走った。固唾を飲む音が一斉に聞こえた。それはまるで爆弾投下のように大きく鳴り響く。
流石は選ばれた軍人のタマゴだな。
壇上に立ったのは二人の男だった。僕達よりは当然として、かなりの年寄りで前日よりもお偉いさん風が増して見える。僕達にとって、初めて見る年寄りと言っても過言ではなかった。
僕達は生まれてからずっと一人きりで、この日の前日以前はずっと自分の部屋の中で過ごしてきた。誰とも触れ合わない。眠りの世界や本などの知識では知っていたけれど、その姿を目の当たりにするとその威圧感に驚かされる。年寄りは、恐ろしい生き物の代表だ。
伸ばし放題の髭には白髪が混ざっていて、帽子を脱いで露わになった髪の毛はとても薄く、地肌が見える箇所もあり、生き残りの頭髪も当然のように白髪混じりだった。その服装は眠りの世界の彼が着ていた制服の色違いだった。正確にはデザインも異なるけれど、当時の僕にはそう見えて、少し嬉しいような残念なような複雑な気持ちに陥った。
しっかりと訓練をして立派な軍人になりなさい。
その男はそう言うと踵を返して階段を降りて消えていった。
残されたもう一人も同時に踵を返していて、その背中に敬礼をする。
僕達はこれでやっと帰れるんだなと感じた。全員が同じ思いだったようだ。一斉に安堵のため息が漏れた。それは一瞬の春一番のようでもあった。
さて、明日からは直接訓練場へ行くこと! 場所はこの先北北東に三百メール! 体操終了から十五分後には整列していること! 並び順は今日と同じ! 以上!
もう一人の男も同じ服装をしていた。髭は生やしていたけれど、白髪はなく、帽子を脱いだ際に地肌は見えなかった。顔の皺の様子からも、少しは若い年寄りだと理解した。
もう一人の男が壇上から降りるのを確認してから僕達は動き出した。誰もが文句も言わずにそれぞれの部屋に帰っていく。寄り道をする発想はまだなかったけれど、お喋りをする連中は少なからずはいた。僕は誰とも喋らなかったけれど、その理由は特にない。多分だけれど、一週間後には自然と周りにいる誰かと会話をしていたと思う。
広場から家までの間には道路なんてなかった。同じ敷地内にあったんだから仕方がない。道路は窓から見えていた。そこを歩く集団の姿も見たことはあった。まさか自分がそこを通ることになるとは思ってもいなかった。その道路を走るトラックに、幼い頃は得体の知れない恐怖を感じていたものだ。すぐに見慣れてしまったけれど、遠目からでもその異様さは感じ取れていた。
山積みのトラック。うず高く積み上げらているものがなんのかを知ったのは、訓練場へ通うようになってからだ。それもまたすぐに見慣れてしまう。どんなに恐ろしい現実も、三日も続けばそれが日常になってしまう。哀しいけえど。