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 朝の体操が終わるとすぐに動き出す。玄関ドアが勝手に開く。けれどそこには誰もいない。前日の彼の姿を探してしまう。

 玄関ドアから顔を出し、外の様子を覗った。前日の彼はいなかったけれど、両隣の部屋もドアが開いていて、僕と同様の姿を目に留めた。

 すでに着替えは済ませていた。ベッドの下に用意されている洋服を着るだけの習慣は、例えその洋服が趣味に合っていなくても避けることは出来ない。なにも考えずに着替えるだけだった。

 誰がなにを言ったわけでもないけれど、そのままドアも閉めずに外に出た。向かう先は決まっている。僕以外のみんなも同じ行動をとっていた。

 僕達は前日の広場に向かった。

 広場に集まった千五百人は、同じ位置に整列し、同じ姿勢で壇上を眺める。やがて誰かが現れるのをただ黙って待っていた。

 二時間は過ぎたと思う。

 誰一人身動き取らずに口元すら開かない。

 それからまた二時間が過ぎた。

 僕の身体は限界に近づいていた。日頃から身体を鍛えてはいたけれど、同じ姿勢で四時間も過ごすのは寝ているときくらいだ。

 寝ているときも寝返りくらい打つだろうって思うかも知れないけれど、僕達は打たない。僕も最初はそう思っていた。寝相がいいことは承知していた。寝起きのベッドがそれを教えてくれていた。けれど、全く動かないとまでは思っていなかった。そのことに気がついたのは最近だけれど、僕は何度か実験もしているから確かだ。少なくとも、生まれたときからこの場所で育った兵士は睡眠中に無駄な動きをしない。動くのはお腹と鼻くらいのものだ。まぁ、脳内はフル稼働している筈だけれど。

 恋人の寝相の悪さに驚くのは、僕達の中ではあるあるになっている。女の人だけの特徴だと思っていた。人によっての違いが結構激しいため、軍人の間ではよく話題に上がる。初めての恋人はどんな寝相だったかとか、今の恋人の寝相は可愛らしいとか、お前はどんな寝相が好みだとか言い合っては楽しい時間を過ごしている。

 僕は三番の恋人にこう言われた。あなた達って、まるで死んでいるように眠るのね。

 睡眠と死は似ている。戦場では多くの死人を見ているけれど、傷口がなければ寝ているだけなんじゃないかと思うことは多々ある。それも時間経過とともにやっぱり死んでいるんだと感じるのは、とても寂しい。

 軍人さん達はいつ死ぬか分からないから、その練習なのね、きっと。

 僕達の恋人は、必ず僕達のことを軍人さんと呼ぶ。あなたや君なんて呼ばれることはあっても、名前では呼ばれない。名前で呼んでほしいと頼んでも、笑顔をくれてお終いだ。返事すら返ってこない。そして大抵は、二度と会えなくなる。偶然に街中などですれ違っていたことはあるかも知れないけれど、僕は現実に別れた恋人と再開したことは一度しかない。その恋人は隣の部屋の新しい恋人になっていた。驚いたけれど、悔しくはなかった。むしろ嬉しかったよ。死んでいった仲間にもう一度出会えた気持ちになった。

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