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 僕は知った。僕達が暮らしている部屋の真の姿と、近くにいた同志の存在を。

 窓から外を覗いていたから、建物の姿は大体想像は出来ていた。けれど、こんなにも多くの同志がいるとは思いもしなかった。僕はただ一人特別に部屋を与えられたとも思わなかったし、身近に人の気配は感じていた。ただ、その人数が僕の想定を超えていたってだけだ。僕はいつでも世間知らずってことだ。

 この建物は五十階建てだった。一つの階には三十の部屋があった。つまりはこの空間には千五百人が暮らしていたってことだ。

 外から見ると真四角に見えることを知ったときには何故だか感動をして涙を溢してしまった。それが僕一人じゃなかったことにまた感動をする。

 この建物には階段しかない。地上に降りるためのその他の手段がなかった。壁を伝ったり飛んだりすることは今では出来るけれど、ここでは実践しない。それは戦場での戦いによってやらざるを得ないときにするだけだ。日常でそれをするのは不自然だよ。

 階段を降りるときに、彼は掛け声をかけていた。

 いち、に! いち、に!

 基本はその繰り返しだけれど、突然リズムが変わる。階段を降りるときと登るとき、平坦でも長距離と短距離で変化がある。曲がり角のリズムはとても楽しかったりする。それが変拍子だと知ったのは、ごく最近のことだ。

 そしていつの間にか建物の外に出ていた。そこは大きな中庭と呼ばれている。千五百人のその倍が集まってもまだ余裕がある。

 僕の部屋は四十四階。玄関に顔を向けてみると右から十三番目。

 中庭で他のみんなが来るのを待っている間はずっと足踏みを続けていた。全員が揃うまで休憩は許されない。一番最後に整列する誰かも、どこかで調整のための足踏みをしている。始まりから最後までを考えると、みんなが同じ歩数で足を動かしている。

 動き、辞め!

 全員が揃ってから数秒で彼がそう叫んだ。僕を先導していた彼だけではなく、千五百人の彼が同時に叫ぶと、空気だけでなく地面さえも揺れ出した。

 僕達の目の前にはそれぞれの彼が立っていて、その声を合図にそれぞれの彼だけが僕達に対して振り返る。

 貴様達に告ぐ!

 その声は、彼の口からは聞こえてこなかった。何処か視線の遠くから聞こえているのは感じられたけれど、その姿が僕には見えない。

 後になって知ったけれど、中庭には壇上が一つ用意されていて、その上に立つ一人が叫ぶ声だった。

 その声は耳に心地良かった。心の奥に突き刺さる声には逆らえない。

 戦場での心得!

 意味なんて分からなくても関係はない。耳がそこから離れない。

 その一!

 そこから続くその声は、その九十九で終わりを告げた。

 この日はそこで解散となった。僕達は誰も文句一つ言わずにそれぞれの部屋に帰っていった。途中で無駄口を叩く者は一人もいない。

 中庭に出るときに先導していた彼達は、僕達とは別の方向に消えていった。

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