15
洋服なんてどうでもいい。裸を隠せて身体を暖められて防護出来ればそれだけでいい。なんて考え方はつまらない。服装は、僕達唯一の個性を表現する方法なんだ。顔はみんながほんの少し違っているけれど、髪型は基本同じだ。元々の肌の色が違っていても、同じ環境にいれば寄り添ってくる。考え方だってそうだ。戦場では決まった制服が用意されるけれど、普段着は違う。好きな服装が許されている。それを着て外に出る機会なんて殆どないのが現状だえけれど。
洋服の選び方は色と形、そして素材。たったそれだけだけど、無限に個性を表せる。
プレゼントされる洋服には、いつも僕の希望が備わっている。求めていたのもを貰えるのは最大の喜びだ。どうしてこれほどまでに僕の思考を理解しているのかとの疑問は感じなかった。
十二歳の誕生日には、当然のように好みの洋服もプレゼントされたけれど、その隣には趣味には合わない洋服も置かれていた。
それが戦場用の制服だと知ったのは、その直後だった。いわゆる軍服だ。
開かれた扉の向こうに、それと同じ制服を着た男の人が現れた。まずはその前にカツカツと足音が聞こえてくる。異様な空気が流れる。色までもが変わったように感じられた。部屋中が緊張感に満ちていく。
敬礼!
彼の叫びを聞くと何故だか身体が引き締まる。サッと立ち上がり、彼の同じ姿を真似する。
着替え、始め!
彼の言葉には何故だか身体が勝手に反応する。制服に着替えるのに時間はかからない。ほんの数秒で着替えも脱いだ洋服の片付けも済ませることが出来た。
足踏み、用意!
パッと両足を揃える。
始め!
その場で足踏みをする。
前へ、進め!
彼に向かって歩みを進める。
止まれ!
彼の鼻先で立ち止まった。
僕は感じていた。彼の声は、一つじゃなかった。似たような声質が、幾つも重なっている。足踏みも、一つじゃない。建物が激しく揺れているのも感じていた。
それではこれより、戦場へと向かう!
彼はそう言いながら回転する。向けられた背中の威圧感に思わず一歩後退りしてしまう。
恐れることはない! 着いて来い! 前進、始め!
歩き出す彼の後をついていった。