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けれど戦争は終わらない。
僕は今日もまた、戦場に向かう。人は殺さない。一人でも多くの人間を助けるために戦っているんだ。
僕の家にはミカがいる。ミカは毎朝おはようを言ってくれる。ご飯を作ってもくれる。行ってきますのキスもしてくれる。
帰る場所が、僕にはある。
工場の爆発は成功したけれど、戦争は終わらなかった。新しい軍人は変わらず毎年やってくる。後十年は続く計算になる。施設を出た子供達が、すでに建物内での生活を始めてしまっている。全員を引き取ることなんて誰にも不可能だ。ロボット達は、戦争をやめるにしてもその術を知らない。動き出したシステムを止めることは、全てを壊すことを意味している。そんなことが今更出来る筈はなかった。不可能ではないけれど、それこそ大きな戦争に発展することだろう。
この世界を変えるには、少しずつ動かしていくのがベストだと考えている。僕は戦場で、軍人達と話をしている。意識を変えるには、直接意思を伝えるのが一番だ。絵を描いて渡すこともある。爆発後、ロボット達は新たな工場設立を断念している。この先軍人が増え続けはしないっていうことだ。世界は確実に変わろうとしていることを平等に伝えていく必要がある。
隣の部屋には彼とアンナが暮らしている。二人もまた以前と同じような生活を続けている。アンナは彼だけの恋人として、彼は教官として新人の指導をしている。自ら申し出たそうだ。この街を離れないことを条件に、この街の施設初の専任教官だ。死んでしまうことはもう、望まれていない。
一つだけ以前とは変わったことがある。僕達はもう、地下施設には通っていない。
地下施設にはそのものはなくなっていないし、なくしてしもうとも考えてはいない。今後なにかの役に立てばと模索をしている段階だ。
上下左右斜めへと自在に壁をすり抜けるように動くエレベーターは、以前からこの建物にも繋がっていた。軍人や恋人達には使用が許されていなかっただけだ。ふと気がつくと新しい本がリビングに置かれているのは、エレベーターを利用した管理ロボットの仕業だった。
ロボット達が戦争を辞めれずにいる理由は、戦争がお金を生み出しているからだ。戦争がなくなると、経済が回らない。ロボットの計算によりそう判断がなされている。
お金がないと世界が不幸になるっていう計算は、ロボットが試算している。なんとも恐ろしい世界だと思う。
一般市民の街で出会ったグループの男は、今やこの国の実質的トップに立っている。つまり革命は成功したってわけだ。ロボット達は、男の意見を尊重し、従っている。けれどそれは、この国での話だ。
世界はまだ、四つに分かれている。三つの国ではロボットの支配は変わらない。けれど、軍人と恋人の新たな供給が止まったことは理解している。殺し合いの無意味さにも気がついている。戦争は辞めた方がいいのと意見には賛同している。
表向きの世界はあまり変化を見せていないかも知れないけれど、確実に変わろうとしていることは確かだ。
僕達は、ただこの瞬間を生きることしか出来ない。それでいいんだって感じている。
なにも変わっていないかのように見える街並みだけれど、たった一つだけ明らかな変化が見て取れる。
以前は頻繁に道路を走っていた死体で山積みのトラックが、消えている。