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ボタンを押したのは、彼女だ。僕も手を添えてはいたけれど、力なんて入らない。重力で彼女の手についていったに過ぎない。
分かっているとは思うけれど、彼女が押したんだと責任を押し付けているわけではない。正直に言って僕には押すことが出来なかった。その力が湧いてこない。彼女の手に僕の手を支えていただけでも上的なんだよ。僕としては、自身で押したも同然だと感じている。
押した瞬間に爆発が起きないことは聞いていたけれど、おかしな気分だったよ。ボタンは確かに時間通りに押され、カッチという音も聞こえた。その音が聞こえたってことは、遠く離れた彼と同時に押している証明らしい。少しでもズレると、ブーッという音が鳴ると聞いていた。
僕と彼女はすぐさま下を目指した。一階を目指すのは馬鹿だ。逃げるには地下しかない。出来れば別の建物の地下が望ましい。
エレベーターは開いたままになっていた。彼女がそう指示したからだ。出る前に、ここで待っててと一声残していた。
隣接する建物や地面があれば左右斜めへの移動も可能ではあるけれど、孤立している建物ではそれが出来ない。出来るようになるのは地下空間に入ってからだ。
エレベーターの移動速度は変えることが出来るとそのとき知った。本来なら出来ないことだとは思うけれど、彼女の言葉には逆らえないようだった。最高速で安全に地下まで降りて! それからできるだけこの建物から離れて!
僕にはほんの少しだけど、エレベーターが頷いたかのように感じられた。