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街の様子を眺めらがら歩いていた二人は、僕達のことなんてすっかり忘れていたという。そんなことはどうでもいい。今をただ意味もなく楽しんでいたい。そんな気分にさせる街なんだと言っていた。
けれど、そのまま自由を味わうってわけにはいかなかった。彼の目の前に、ある人物が現れたからだ。まさか嘘だろなんて思わなかった。やっぱりそうかと思ったよ。あのおじさんは、出会った当初から怪しい空気を纏っていた。
公民館のおじさんが、彼の背後から肩を叩いた。振り返った彼の目の前におじさんがいた。二人は顔見知りだったようだ。というかアンナもおじさんさを知っていた。そのことを彼は知らなかったようだけれど。
おじさんが公民館にいたのは、偶然ではない。一人しかいなかったのも、彼からの連絡受けていたからだし、もともとそこには別の看護部隊の人間が複数いた。おじさんが無理矢理追い出していたってわけだ。おじさんは、軍隊側の人間ではなかった。あの街でお店を開けていたのは本当だったようだけれど、すでに痕跡は消している。
彼の言葉としては聞いていないけれど、おじさんから引き受けたが仕事が彼女を守ることだった。彼はきっと、教官として出張していた先でおじさんと会ったようだ。その出会いは偶然なんかじゃなく、ずっと彼を取り込もうと狙っていたんだ。彼女を遠目から見守るに彼ほどの適任者はいない。僕じゃ駄目なんだよ。彼女との距離が近過ぎる。
アンナもまた、おじさんの協力者だった。けれどこちらは複雑だ。アンナの事情は色々と深い。まぁ、一度は僕の恋人でもあったんだ。アンナの魅力はよく理解している。
アンナはおじさんから革命を企てているグループに近づくよう指示していた。それは見事に成功している。