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彼はとにかく謝っていた。一緒に行けなかったことを悔やんでいた。彼女は特になにも感じていないようだった。初めのうちは。
なんでそんなに謝るんだろうと、僕でさえ感じていた。その思いは彼女も同様だった。
なんでそんなに謝るの? と彼女は聞いた。
彼は不自然に間を開けた。動揺しているのか、アンナと話し込んでいるからなのかは分からない。トランシーバーはボタンを離してしまえば単純に不通になるだけで、空気感さえ伝わってこない。
俺は頼まれていたんだよ。君を守ってくれとな。それがこんな結果になってしまった。彼に会ったら済まなかったと伝えてほしい。
彼の言葉に対して彼女はこう言った。
あなたも作戦には参加するんでしょ? だったらいつか私とも会えるし、その人とも会えるでしょう? 自分で言いなさいよ。多分だけれど、私がその人に会うことはないわ。
その後も二人の会話は続いた。彼女は彼に対して一度も、なにを誰に頼まれたのかと聞くことはなかった。
彼女は彼の状況を聞くばかりで、自分のことを話そうとはしない。僕はとても気になっていたよ。横槍を入れてやろうと何度も考えたけれど、僕はそれほど野暮じゃない。いつか知るときがくると言い聞かせ、気になっていない素振りをしていた。
彼はあの後、自力で瓦礫の中から這い出たという。信じられないことだよ。彼の背中には壁の一部が直接覆い被さっていた。その後も瓦礫の山が崩れ落ちていくのを見ていた。あれで助かるとは、普通では思えない。
彼は普通じゃない。そんなことは承知している。あれがもし、アンナと立場が逆だったら、間違いなく彼は楽々と難を逃れていた。けれど、誰かを庇いながらでは難しい。あの状況で生きていられるのは人間じゃないよ。