悪役令嬢じゃなくて悪役王子達の間違いじゃないの?
私達は昨日学園を卒業した。
明日からは別々の道を歩み出す。
それに伴って毎年学園最後の日、大人への門出として舞踏会が開かれていた。
本日も皆が気合を入れて着飾り、舞踏会を楽しんでいた。
それも先程まで……。
「エルフィーヌ、君との婚約はこの場を持って婚約破棄する。
私は彼女、キャスリン・ロード嬢と新たに婚約する!」
大声で叫んで注目を浴びているのは卒業生であり、この国のクルト王太子だった。
王太子にぴったりくっついてるのは小動物のようなふわふわした少女、キャスリン嬢。
その周りにいるのは将来王太子を支える役目の重鎮の子息達。
「エルフィーヌ、お前は悪役の様な女だったんだな。俺達の見ていない所でか弱いキャスリンを説教したり、俺達に声を掛けるなと言ったり、キャスリンだけお茶会に呼ばず除け者にしたり、挙句にはキャスリンの大事にしていた銀のブレスレットを奪い取ったそうじゃないか!
お前みたいな悪役には未来の王妃は相応しくない!」
「お説教したと言われますが、学園では女子生徒は制服の時はストッキング着用と規則で決まっています。それなのにキャスリンさんだけは何度注意しても素足で通われます。男性がいる所で話す事ではありませんし、もし家計の事でストッキングの用意が難しいなら、申請すれば学園から支給もあるとお伝えしました。
それに同級生と言えども、王族に対して気軽に話しかけて良いわけではありません。節度を守る様にお話ししました。
お茶会は個人的に仲の良いお友達を数人呼んで我が家で開催しました。私はキャスリン様とはお茶会に呼ぶ間柄ではありません。
キャスリン様のブレスレットは落ちていたのを私が見つけたので、拾って用務員さんに届けました。問い合わせて頂いたら分かります」
「お前がなんと言い訳しようと、キャスリンが傷ついたのは事実だ!」
「クルト様。私怖いです」
「キャスリンが怖がっているじゃ無いですか!」
「そうだ!キャスリンが倒れたらどうする気なんだ!」
「キャスリンは繊細なんだ!貴方の言い方が酷かったんだろう!」
クルト王太子と三馬鹿トリオが口々にエルフィーヌを攻めた。
攻めを返したのはエルフィーヌの後ろに控えていた令嬢。
三馬鹿トリオの一人の婚約者でもあった。
「貴方達は婚約者のいらっしゃる殿方に他の女性と腕を絡ませたり、食事をしたり、二人きりになったり、愛称を呼ぶ事が許されるとお思いですか?
私達がしたらどうお思いですか?」
「そんな事許される筈ないだろう!そんな女とは婚約破棄だ!」
「ですよね。
そうですわよね。
その通りですわ」
「「「ですから、私達は貴方と婚約破棄致します!!!」」」
「ちょうど良い。俺達も気の強い悪役令嬢のお前達が婚約者では納得していなかったんだ」
「私も、もう貴方は必要ありませんわ。だから婚約破棄をお受けします。
此処にいらっしゃる方達に証人になって頂きます。私達は今この瞬間から婚約者ではありません。よろしいですわよね?」
見守っていた大半の人はコクコクと頷いた。
「私達が責任を持って婚約破棄の証人になります」
カーテンが開き会場に入ってきたのは国王夫妻と重鎮夫妻達。つまりクルト王太子と三馬鹿トリオの親達だった。
「父上、母上、私とキャスリンの婚約を認めて下さいますね!」
「キャスリン嬢、クルトと婚約する気はあるのか?」
「私は…。婚約しません!する気は全くありません」
キャスリンの思わぬ返事に王太子も三馬鹿トリオも目を見開いて驚いていた。
「な、なぜだ!?なぜなんだ?キャスリン…」
クルト王太子は頭が真っ白になっていた。
「そ、それなら、私と婚約してくれ!」
「いや、僕とだ!」
「俺に決まってる!そうだろ?キャスリン!」
その反面三馬鹿トリオは高揚して、それぞれキャスリンに向かって気持ちを叫んだ。
「私はどなた共婚約致しません。」
冷めたキャスリンの答えに
「えーー!!!?」
四人とも驚きを隠せなかった。
「王族が卒業する時は王になる適性を測る為に、学園にキーパーソンを送る事になっているんだ。王族として相応しいか、時期国王や側近になれる素質があるのか。婚約者として伴侶に相応しいか」
国王は説明した。
「キャスリン嬢はお願いしてお前達を誘惑してもらったのよ。
演技とも分からず、のめり込み、周りが見えなくなり、お前達は家も国も滅ぼす気なの!?情けない!」
王妃は怒っていた。
「真実の愛など若い時に出会い、分かるはずがあるか!
そんなものは長年連れ添い分かるものだ!
お互いに尊敬し合い、敬愛してこそ、真実の愛だ!
馬鹿者達が!」
最年長の宰相が怒鳴りつけた。
「私は尊敬しているエルフィーヌ様が陰で辛そうな、悲しいお顔をされているのが辛かったです。だから、今回の事も協力させて貰いました。
エルフィーヌ様、すみませんでした」
キャスリンはエルフィーヌに詫びた。
「キャスリンさん、私の為に動いてくださったのですね。ありがとう。
クルト様、私は貴方の婚約者になれて嬉しかったんです。だから、厳しい王太子妃教育も頑張りました。ですが、貴方が私に下さったのは……」
「それならば、エルフィーヌ、もう一度私と婚約しよう!」
「兄上!今更馬鹿な事を言わないで下さい!」
止めたのは弟のリヒトだった。
「クルト様、貴方が私に下さったのは、悲しみと絶望だけでしたわ。
貴方は私が貴方を好きだとご存知でしたよね?だから面倒臭い事は全て私に押しつけて、都合よく使っていましたよね?その上、悪役令嬢とまで言われました。そんな方と生涯を共にするつもりはありません」
「こ、これからは大事にする!だから……」
エルフィーヌは首を振った。
「手遅れです。私には既に心に決めた方が居ます。私が辛い時にいつも声を掛けて下さり、側に居てくださいました」
「誰なんだ?それは浮気だろうが!」
「僕ですよ。
それに浮気ではありません。父上達にも報告していました。
僕達は未だに清い関係です。
それに二人っきりで会ったりもしていません。必ず侍女と護衛が居ましたから。エルフィーヌは僕が幸せにします。
それにしてもエルフィーヌ達の事を悪役令嬢とはよく言えましたね。
僕からしたら兄上が悪役王子で、側近達は悪役令息ですね」
リヒトはそう答えるとエルフィーヌの腰にそっと手を回した。
「此処に宣言する。王太子のクルトは廃嫡し、臣下とする。そして一代限りの伯爵として領地を与える。辺境の地を守れ!
新しい王太子は第二王子のリヒトとし、婚約者としてエルフィーヌを置く事にする。結婚式は既に準備が出来ているので、予定通り3ヶ月後とする」
「ち、父上!許してください!もう一度チャンスを!」
「お前には何度もチャンスはあった筈!
エルフィーヌが忠告してくれていたであろう?何故婚約者であるエルフィーヌの忠告を聞かなかった?」
「そ、それは…、女に言われる筋合いは無いから…」
「馬鹿な!?忠告をしてくれる者がどれ程、己自身を思ってくれているのか、分からなかったのだな。やはりお前には王族である資格はない!さっさと此処から去れ!」
「愚息ども!お前達も廃嫡だ!クルト様に着いて行くなり、市井に行くなり好きにしろ!」
「父上!?
お父様!?
父さん!?」
「クルト様を諌める事もせず、一緒に女に現を抜かしおって!
臣下のするべき事では無い!
お前達の後継は既に決まっておる!
下がれ!」
後継はリヒト付きの者たちだった。リヒトも含め、国を支える者として素質、心構え共にあった。
そして、それぞれ思いやりも持っていた。
「それぞれ、婚約破棄はしたが、私達は幼い頃から実の娘と思い接して来た。素晴らしいレディ達だ。新しい後継者と話し合い、出来れば縁を繋いでほしい」
宰相の言葉に新しい後継も元婚約者達も深々と頭を下げた。
それぞれ婚約者となるだろう。
側にいる者達は笑顔だったから。
3ヶ月後、予定通り結婚式が挙げられた。
王太子含め4組の合同結婚式だ。
結婚式では笑顔が咲き乱れていた。
キャスリンはエルフィーヌの侍女長となり、尊敬するエルフィーヌを支え続けた。