表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/24

第23話 「愛しい人達と」

 シンシアと抱き合って転移したはずの俺は、常夏のリゾートアイランドといった感じの街に独りで立っていた。

 また事務所に戻ると思っていたから困惑していたが、この街に来た理由も、独りで居る理由も直ぐに記憶が追い付いて来た……。


 開放的で楽し気な雰囲気の漂う街並みを抜け、軽やかなスティール・パンの演奏が遠くに聞こえる中、俺はある建物に向かって歩いている。

 何度目だろう。この道を歩くのは一体何度目だろうか。

 しばらく歩くと、サングラスやポストカード、リゾート地でしか着られないような服を売っている店が目に入る。

 その店に入り奥へと進むと、店主が会釈してきた。

 見知った顔にうなずいて会釈を返し、裏手の階段から二階へと上がる。

 薄暗い廊下を歩き、一番奥の部屋のドアを開いた。


 扉を開けると、金髪の爽やかな青年と、黄色い瞳のしなやかな体躯の黒い獣が俺の方を振り向いた。


「にゃーにゃーよ、何年もすまんな」


 美しい黒豹の頭を撫でながら、あの日から幾年もこの場に留まり、守ってくれているお礼を伝えた。


「お前、毎回毎回その名前で呼ぶなら噛み殺すぞ!」


 俺は笑顔で返事をすると、ベッドサイドに居る青年の方を見た。


「クリス……」


「うん。君が今回持ち帰ったシンシアの魂の欠片で、今度こそ足りると思う」


「良いよ。もしダメなら、また行って来るさ」


「……」


「気にするな」


「僕らはここに居て、一日置きに現れる君を待っていれば良いだけだけれど、君はその間に何年もの時を繰り返しているのかと思うと……。本当に申し訳ない」


「何て事はないさ。シンシアのためなら億万年だって繰り返すさ。それにクリスが謝る必要は無い」


「でも、あの時僕を守ろうとしてシンシアは……」


「いや、あの時シンシアの死の直前で、君がシンシアの魂を欠片にして、時空の彼方に飛ばしてくれなければ、俺はシンシアと再会できる望みすら無くなっていたんだ。それに、あの戦いで敗れたのは俺の実力不足だ……」


「そんな事は無いよ……」


「シンシアを取り戻したら、あいつを確実に倒す……。クリス頼む」


「ああ、じゃあ行くよ」


 クリスがシンシアの傍に行き、あれ以来幾度目になるのか分からない『還魂の魔法』を唱えた……。


 ――――


 黒豹が目を細めて喉を鳴らす。

 シンシアの膝の上で丸くなり、幸せそうに撫でられている。

 俺はクリスと涙を流しながら抱き合った後、シンシアに口づけをして、直ぐにカーラに連絡を入れた。

 感極まって涙声で返答するカーラの後ろで、事務所内に広がる大歓声が聞こえて来る。


 あの時……『根源のマナ』を巡る黒い瘴気しょうきまとった龍の王との戦いで、俺達は敗北した。

 そして、その戦いでシンシアはクリスを守る為に命を落としたのだ。

 いや、正確には命を落とす寸前に、クリスの魔法で肉体をこの世界に、魂の欠片は時空の彼方へと飛ばされ、彼女の存在は守られた。


 その時から、俺達は二つの事を成し遂げなければならなくなった。

 『根源のマナ』を奪われ敗北したままでは、全ての世界の未来は闇に包まれる。

 再度派遣を行い瘴気を纏った龍を倒す事と、シンシアの魂の欠片を集め彼女の肉体に戻す事……。


 彼女の魂の欠片を集める方法は二つ。

 時空の彼方へと飛び散った欠片を集める事が最も確実だが、どこに有るのかも分からない欠片を集めるのは不可能だった。

 もうひとつの方法は、彼女と共に過ごした世界を最初から経験し直して、彼女との全ての記憶と共に、この世界に戻り欠片を少しずつ溜めて行く事だったのだ。

 そして遂に彼女の体に魂が戻り、愛しいシンシアが俺を見つめている……。


 ――――


「で、にゃーにゃーよは、何年向こうに居る事になるの?」


「約一千万年だな」


「うひゃ。それは酷い」


「まあ、あいつは不死の存在だからね、今回だけは我慢してもらおう」


「実際に経験するのは二回目だけれどね」


「まあ、前回の事は忘れた上で『半記消』での派遣だから、今頃は黒豹姿の自分に歓喜しているだろうね」


「やったにゃーにゃーよー! 黒豹にゃーにゃーよー! ってね」


 俺とクリスの横に居るシンシア、いやリディアが一斉に笑い声をあげた。

 リディア・シンシアは、この事務所がある世界と一部の世界では妖精の姿で、他の世界では美しいシンシアなのだ。

 にゃーにゃーよも同じで、まん丸でモフモフのコミカルな黒猫の時と、しなやかで美しい黒豹の時がある。

 もちろん、俺も派遣先によって性別も姿も変わる。


「さあ、そろそろにゃーにゃーよを助けに行こうか!」


「ああ、この日の為に入念に準備をして来たからね。あの黒龍を一撃できっちりほうむってやろう」


 俺は派手な装飾の白いコートの様な防具を身に付け、文字が刻まれた強大な剣を鞘に納めた状態で腰に下げている。

 転移した刹那、この剣を振り抜き衝撃波で黒龍を消し去る。

 あの時から止まった時間を取り戻し、世界を闇の未来から救い出すのだ。


 小さなリディアと口づけをすると、三人で転移に備えた……。


 ――――


 目が覚めると、俺とシンシアの間にモフモフのにゃーにゃーよが潜り込んで寝ている。

 にゃーにゃーよは撫でると最高の触り心地だ。

 ふと見ると、シンシアも目を覚ましていた。

 体を寄せて口づけをする。

 熱い口づけを交わしていると、二人の頬にモフモフが顔をり寄せて来た。

 俺達三人は派遣先の世界で最高に幸せな時間を過ごしている。


 そんな時、カーラから通信が入った。


「ねえ。次の派遣先には、そのまま直で転移になるわよ」


「ああ、分かった」


「今回は『記消』派遣だからね。向こうで三人が揃うまでちょっと時間がかかるわよ。でも、上手く思い出せない感じだったら、約束通り私が連絡を入れるから安心して!」


「了解!」



 


ふらわあ召喚社 END





作:磨糠まぬか 羽丹王はにお


最後まで読んで頂き、ありがとうございます!


『ふらわあ召喚社』これで一応のENDです。


更新をする度に、読んで頂ける方がいらして、本当に嬉しかったです。

心から感謝しております。


作品としては「折り込みたいな」と思っていたことを、何とか織り込めたのではないかと思っています。

作者は「にゃーにゃーよ」の事は気に入っていますので、他の作品に現れるかもしれません^^

そして、この世界観は気に入っていますので、『ふらわあ召喚社』の別編を描く日が来るかも知れません。

その時は、また可愛がって下さい。

宜しくお願いします。



一言でも構いません、できれば感想などを頂けましたら、とても嬉しいです。

ありがとうございました!


挿絵(By みてみん)

「読んでくれて、ありがとにゃーにゃーよー♪ またにゃー!」


磨糠まぬか 羽丹王はにお

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ